『子供のように』
私立日賀志高校、七人しかいない演劇部の一年生。
あぁ、今日はここで上演するんだ。
観客席のドアを開けて、降りている緞帳を見た。
ワクワクした。
緊張した。
だけど、自分にできることをやりきりたかった。
今まで何度も何度も重ねてきた練習。
先輩から貰ったアドバイス。
きっちり全て受け止めることはできなかった。
だけど、今の自分に表現できることを。
人物を生かす。
台詞がないときでも動く。
客の目は惹かずとも、「私」は生きているから。
紙の上の存在ではないことを
今日、証明する。
『喪失感』
私は、彼が嫌いだった。
ある日告白されて、付き合った。
その時は、好きだった。
けど、段々と嫌になっていった。
嫌なところが目につくようになった。
だから、私の方から、一方的に振った。
それなのに。
なんでかな。
どうして。
どこからか溢れてくるこの雨粒は、
とめどなく落ちてくるんだろう。
『世界に一つだけ』
自分と同じような個性の人は無数にいる。
自分と同じような顔立ちの人は無数にいる。
自分と同じような服の人は無数にいる。
自分と同じような好みの人は無数にいる。
自分の持っているDNA配列と全て一致する人は居ない。
『胸の鼓動』
1秒1秒太鼓のような音で体が震える。
寝ていても絶えず動き続ける、とまれば死ぬ。
いつでも、どこでも、どんなときでも。
ただそれだけで終わる脆い命
大切にしていてもかならず来る終わりに抗うことなく死ぬのは嫌だ
なのに僕らは今日も明日も暇つぶしという名の生活を続けている
というのだ今すぐに…死んで…しま…うかも知…れな…い……
もう当分……ヒマツブシハコリゴリダ
『貝殻』
ふと中身が詰まった瓶を見つけた。
あの、青い春の出来事。
今では再現できないこと。
イツメンで海に行って、
貝殻を集めて、アクセサリーにしようって。
でも、そんなことができるほど
器用な人はいないなって笑いながら集めた。
瓶につめて、また集まろうと約束した。
でも、叶わなかった。