『香水』
君の横を通り過ぎたとき
いつもと別の甘い香りがした。
あぁ、また別の女に変えたんだ。
早く僕に帰ってくればいいのに。
君の横を通り過ぎたとき
いつもはしない爽やかな香りがした。
あぁ、やっと女を見つけたんだ。
早く俺から離れてくれればいいのに。
『言葉はいらない、ただ・・・』
いろんな人と挨拶を交わして席にカバンを置く。
机の横に掛けるだけだからそのままにして、
汗拭きシートを取り出しつつ、話す。
和「りのんちゃん、ゆめっちおはよ~」
璃音「なごちゃんおはよ」
夢「汗だくじゃん笑」
和「自転車だったからさー」
朝の挨拶をしたら、いつも通り時間割の話と、
各々喋りたいことを話す。
夢「今日のポケモンスリープ全部イモムシ…」
和「また?笑笑」
璃音「そーゆー時もあるさ〜」
和「あ、璃音ちゃん、今日朝学は?」
璃音「多分英語〜」
夢「\(^o^)/」
璃音「今日、コレ持ってきた。食べる〜?」
和「後でもらうわ!」
夢「眠くなったらもらう〜」
そんなこんなしているとチャイムが鳴る。
休み時間も雑談して、お昼も一緒に食べて、放課後になる。
夢・璃音「また明日〜、ばいばーい!部活がんば!」
和「うん、がんばる〜。気をつけてね〜」
そう言って、2人は帰っていく。
4階の奥の階段のすぐ横の教室。そこが部活の活動場所。
和「お疲れ様でーす」
弥璃「おつかれちゃちゃ〜、今日部活休みだって。」
和「あ、そうなんですか?分かりました〜」
弥璃「べにと、きいと、しゃけと、ひでさんはもう帰った」
和「こだちゃん先輩も帰りますか?」
弥璃「そだねー、帰るかな」
和「分かりました、お気をつけてぇー」
そんなこんなで、先輩も帰った。
この部屋は演劇部員しか使えない。
部活がなくても、勉強には使える。
和磨「お疲れー、今日部活休みだってね」
和「らしーよ」
和磨「ちゃちゃは勉強してから帰るの?」
和「テスト近いからね〜」
和磨「じゃあ俺も勉強しようかね」
和「いーんでない?」
7時間目も終わったばかりでまだざわざわしている廊下。
クーラーも止められてじわじわと暑くなる教室。
和磨と私は教室の窓とドアを全開にして、
窓側の机に座って勉強道具を広げた。
そのまま、廊下のざわめきを置いて、それぞれの課題に取り組む。
だんだんと日が落ちて、廊下の喧騒は止む。
今日は木曜日だから、4階に残っている人は居ない。
ただ、私と和磨を除いて。
私達は言葉を交わさず、只々勉強を続けた。
私は、左手を置くはずのところに文鎮を置いて、
右手でシャーペンを持つ。
和磨は、右手を置くはずのところに文鎮を置いて、
左手でシャーペンを持つ。
空いた2つの手を、人目を避けるように机の下におろして。
太陽が沈んで、
月が顔を見せ、
自転車を漕ぎやすい時間になるまで。
左手と右手は繋がれたまま。
『私の日記帳』
私の日記帳のはずなのに、
書いていることは貴方のことばかり。
『向かい合わせ』
いつも通りの時間に電車に乗って、
いつも通りの暇つぶしをする。
電車内には私以外にはいない。
これも、いつも通り。
それなのに、今日は違った。
向かいの席に、女の子が座った。
同じ制服に身を包んでいる。
驚いて無意識に凝視していると目があった。
なぜだか視線をずらすことができなかった。
それから毎日その子は現れた。
一言も言葉を交わすことはなかった。
だけどいつも、視線を合わせて心のなかで会話する。
向かいに座った彼女と私の行動が
いつも通りのものになろうとしたとき、
物語はゆっくりと歩みを進め始めた。
『やるせない気持ち』
交通事故があった。
彼女が轢かれて亡くなった。
俺はすぐに加害者側の運転手に抗議しに行った。
運転手も亡くなっていた。
事故の原因は、信号無視ではなかった。
飲酒運転でも、スピードの出し過ぎでもなかった。
道路に飛び出してきた野良猫に驚いてハンドルをきってしまった。
そして、対向車線にはみ出て、彼女の車と接触した。
この事故に、悪役はいなかった。
結婚式のドレスを決めた日の、帰り道だった。
どこにもぶつけられない怒りと辛さがただただ、俺を襲った。