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2/27/2026, 6:44:29 AM

〈「一千一秒物語」稲垣足穂 読書記録〉

作家の又吉直樹さんは、この小説と出会ったとき、「本が発光しているように見えた」そうで、帯文に寄せていました。(私が購入した本は帯文なしでしたが)

超短編(数行のものも)の寄せ集めで、詩的な超短編が独立して連続しています。漱石や鴎外、芥川や太宰といった人間の深層に迫る近代小説の文豪とは、異なっています。人間の心情を描いていません。ニヒリズム文学というジャンルに括られています。
超短編が独立しているのですが、それぞれタイトルがついており、大きく二つに分けられる気がしました。
「自分を落としてしまった話」「黒猫のしっぽを切った話」「はたして月へ行けたか?」など、タイトルからは屈折した心情や挫折感を感じるもの。
「ポケットの中の月」「お月様をたべた話」「銀河からの手紙」など、月や星への憧憬や偏愛を感じるもの。
光り輝いているのは、小説の斬新さ以上に、稲垣足穂の天文への憧れがあるんだと思います。

稲垣足穂の本当の夢はパイロットで、日本飛行学校を受験しますが、極度の近視のため、不合格に。しかし、大空を翔ぶ夢は捨て切れず、複葉機の製作にも関わったそう。
打ち砕かれたパイロットの夢。変成(へんじょう)して、日本近代文学の中で、人間の心情は出てこないけれど、砕け散った夢の破片が、独特な作風となり、珍しい光り輝き方をしているんじゃないでしょうか。

極度の近視で飛行学校に落ちてしまった足穂ですが、著者紹介の写真の中の、ぶ厚い眼鏡の中の瞳は、綺麗に煌いているように見えました。足穂が好きだった、天体と同じように。
文学の懐は、大きい。パイロットの夢破れた足穂の気持ちと同じくらい、私もそんな文学が大好きです。