3/1/2023, 2:10:46 PM
#創作
ミカエル様は、時折音沙汰も無く何処かに消えることがある。まるで最初からそこにいなかったかのように。行く場所はいつも同じで宮殿の人目につかない庭園。
大きく育った樹木を見ては、ため息をついて
「会いたいよ、兄さん」
そう呟いて、涙を零す。何をそんなに捕われることがあるのだろうか。死んだ者に固執して、会えもしないのに言葉を紡ぐのは何故だろうか。
「ねぇ、ミカエル様」
泣いている彼に声をかけた。驚いたようにこちらを見て、その場に固まった。大粒の涙を拭ってあげて、笑いかける。
「いつもここで談笑しておられましたね。それはもう、楽しそうに」
口が止まらなかった。残り香に縋っている彼が、腹立たしかった。
「可哀想なミカエル様。愛する人に置いて行かれて、独り寂しくここで残り香を感じるしかないなんて」
「ガブリエル」
静止する声も聞かずに続けた。
「私が消してあげましょうか、残り香。この木を燃やせば、貴方だって」
「ガブリエル!」
初めて、声を荒らげるミカエル様を見た。
「お前は優しい、私には勿体ないくらい。だから、そんなことは本心じゃない。そうだろう、ガブリエル」
急速に体温が冷めていくのを感じた。頭がズキズキと痛むような感覚がした。
「あはは、申し訳ありません」
ルシファー。神に気に入られて、ミカエル様にも愛されて。そんな彼が堕天したとしても尚、両者に愛されていた。それがどうしようもなく苦しくて憎かった。
だから、彼が死んだと耳にした時、嬉しくて仕方なかった。なのに、なのに未だ死んでも愛されているお前は何なんだ。
「僕もお気に入りが死んだら、残り香に縋るのかな」