紫苑

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3/20/2023, 2:28:49 PM

 冷たくなっていく祖父を見た日、漠然と抱いた感想。

「ああ、この人はもう、起きる時間なんだ」

 どこかズレているかもしれない。起きる時間、だなんて、むしろ永遠の眠りについたところだというのに。それでも僕はそう感じたんだ。
 僕らは今、長い長い夢の中にいる。笑いあり涙ありの長編小説の中に。そうしてその物語を終え夢から醒めるとき。それこそが、僕らの“死”なんじゃないかと。
 だからあの日親族が揃って涙を流しているなか、僕は泣かなかった。ただ、祖父の目覚めを静かに見送っていた。



・・・



「先生!———は助かるんですか!?」
 悲鳴が聞こえる。母が嘆く声が、医師の焦る声が聞こえる。うるさいのに、抗議する声は出ない。僕の体は何故か動かなかった。
 ふいに、ふわりと身体が浮く感覚があった。直感的に悟る。『夢が醒めるんだ』と。
 待って。僕はまだ、まだやりきれていないことがある。多すぎる。あれもこれも、まだ全部。
 ああでも、どうしても目覚めなきゃいけないのなら。最後に、目の前にいる母に伝えたいことがある。それだけでいいから。
 夢が、醒めてしまう前に。

4/10/2022, 4:26:08 PM

目に映る世界いっぱい、桜が咲くこと。
新しい自分に出会うこと。
           
               春爛漫