12/5/2023, 5:53:17 AM
春になってもそのサナギはサナギのままでした。しばらく兄弟の蝶が心配そうにひらひらと周りを飛んでいましたが、やがてそのサナギはもう永遠にサナギなのだと諦めてどこかに飛んで行きました。当のサナギはというとサナギの硬い殻の中でうとうとまどろんでいました。夢の中ではサナギは蝶になれていました。夢の中で蝶になれたサナギは突然の雨に濡れて湖のほとりに咲いているスズランにとまって羽を乾かしながらいつも見る夢に思いを馳せていました。夢の中で蝶になれたサナギはうまく体を作れずにサナギから出てこれないサナギの夢をよく見ていました。夢の中で蝶になれたサナギはその夢の中で蝶になれなかったサナギのことを思うと、夢の話だとわかっていても胸がキュッとするのです。春にしては冷たい風がスズランをゆらゆらと揺らしました。やがて羽が乾くと夢の中で蝶になれたサナギはうっすら立ち消えそうになっている湖のたいがんを目指して飛んで行きました。
秋になってもそのサナギはサナギのままでした。もう兄弟の蝶はいません。もう夢は見れません。今年の秋で一番冷たい風がサナギをゆらゆら揺らしました。
11/6/2023, 2:30:58 PM
干していた部屋着のことなんて頭の中から吹き飛んでいた