「君だけのメロディ」 #32
――、 ―、 ―――♪
あなたと繋いだスマホから音が流れてくる。
あなたの指先が紡ぐ、ギターの音。
まだ少したどたどしい、かわいらしい音。
まだ上手く弾けなくて恥ずかしいから、と私にだけ聴かせてくれる音。
途切れ途切れのその流れが、あなただけのメロディとなる。
そしてそれが、私だけが聴いたメロディになる。
「I love」 #31
あなたに伝えたいことがある。
でも、「I love you」なんてストレートには伝えられない。
だから、英語が苦手なふりをしてこう言うの。
I don't know how to say this message in English.
So I say it in Japanese.
"Tuki Ga Kirei Desune"
「雨音に包まれて」 #30
―――やだっ!ねえ!開けて!!開けてよっ!!
雨が嫌い。雨は怖い。
思い出したくもないトラウマが頭を過ぎるから。
深夜11時。数多の雨粒が窓に打ちつけられている。
明日は大事な予定があるというのに寝られない。
怖くて怖くてたまらない。
なんとか心を落ち着けようと明るい画面とにらめっこしているが、文字の上を目が滑るだけ。
そんな中の、君からの通知。
「大丈夫?」「結構雨降ってるけど」
強がって、素直に怖いとは言えなかった。
でも君はそれを見破って「電話しよ」と一言。
今日に寝不足が響かなかったのは、君が安心させてくれたおかげ。
「美しい」 #29
あなたが美しいと思う。
あなたを構成する全てのものが美しいと思う。
くるりと上を向いた睫毛。
やや直線的で少し中性的な体のライン。
縮毛矯正をかける前は毛先だけ丸まっていた髪。
低めのややハスキーな声。
左右対称で完璧だと感じる笑顔。
話す相手によって異なる抑揚の付け方。
まるで世に知られていない芸術作品のような。
とても美しいと思うけれど、誰にも教えようとは思わない。
私だけが、彼女の真の価値を知っている。
「どうしてこの世界は」 #28
どうしてこの世界は思い通りにいかないのだろう。
かっこつけたかったのに失態しか晒さず。
笑わせたかったのにから回って失敗し。
話したいときには上手く話しかけられず。
愛情も好意も照れて言葉にすることができない。
どうして私は思い通りにいかないのだろう。
どうしてあなたは思い通りにいかないのだろう。