【秋】
「もう肉まん売ってる。まあ、暑かろうが秋か。すみません、肉まん…お前いる?」
「あ、くれ」
「おけ。二つください」
何の変哲もないやり取りをへて、近くの公園に向かう。座る場所が欲しい。それに友人と話している時間は楽しい。他愛もないオチもない。取り留めのないやり取りをして公園のベンチで缶ジュースを開ける。
「なあ」
「おん?」
「ペットボトル飲料多過ぎてさー。缶飲料って自販機でしか見なくね?アルコール以外の奴」
「わっかるー。変な飲み物ハンターの俺はちょいちょい自販機探して飲んでるからよく分かるわ」
「スーパーの方がヘンテコ飲みもん多くね?」
「自販機はメーカーが売りたいもん出してるから結構変なのあるぞ。おでん缶をコンビニで見た事あんのかー?」
「ないない。自販機も色々あるよな。餃子、ピザ、ラーメン。便利だねー」
「おもろい。日常のヘンテコ探しは楽しい。陰謀論の5000倍おもろい」
「そうかー。でもまあ、アルミホイルを頭に巻く趣味ないわー。うるさいしあれ」
「やったんかい」
「動画でアルミホイル帽子作り見ててうわーうるせーってなっただけだよ。意味分からんよなあれ」
「電波で頭やられるなら文通してろってのー」
「手紙はいいぞ。入院してるアイツとやり取りしてる」
「は!?ずる!」
友人に肉まんを顔に押し付けられる。
「あつっう!何すんだ!」
「女とやり取りしてんじゃねー!できてんのか!」
「いや、友人ですが何か。つーか、幼馴染だし」
「不純異性交遊でサークル解散な」
「俺とお前だけじゃねーか。そもそも何のサークルだコラ」
「魔法使いになる男サークル」
「滅べ」
「あぁん?純潔守っちゃいけんのか」
「俺は普通に人生送るぞ。だが、彼女はアイツじゃない」
「文通してんのにお前が?脈なし?かー男かそれで!」
「アイツは俺なんかに好意なんざ抱いてねぇっての」
「ムカつく。俺もちょくちょく顔見せに行ってたのにそんな話聞いてない。ジェラー!ジェラシー!」
「些細な事を話すまでもないだけだろ。ちなみに明日にゃ退院らしい」
「お!良かったじゃん。入院なんていうから焦ったが大した事なくて良かった。予定開けておくから迎えに行こうぜ」
「喜ぶだろうな。無論、俺も付き合う。そういう予定だったし」
暫し、無言が続いてから友人が口を開く。
「秋でも青春。ええですなぁ」
「だから、そういうのじゃない。秋恋なんて言葉はあるが何もねぇよ」
「はー…さいでっか」
露骨につまらなそうにする友人の頬に冷たさも欲しくて買った氷菓を突き付ける。
「つめってぇ!」
「お返しだ」
こうやって男と馬鹿やってる方が楽しいと思える俺は本当に女心なんぞ分かってない朴念仁なのかも知れないがどう言われようとアイツに恋心なんてないと思ってる。幼馴染同士で仲良くなって付き合うなんて恋愛映画かラブコメでしかない。作り物だろ。リアルじゃない。俺はそう思ってるよ。
【窓から見える景色】
車窓、窓際。そもそも、窓の役割は光を入れる為のもの。そりゃ窓の側は明るいさ。お日様さえ出てればの話だけど。お、落ち葉。秋だねぇ。ドングリでも探しに行く?本を読んでたい?読書の秋ですか。私は小さな秋を探しに行くよ。コーヒーここに置いておくね。
―
白のロングワンピースに茶のカーディガンを羽織った彼女は紅葉した森の中に踊る様に入っていく。いつまでも少女のような人だ。そんな彼女と結婚出来て幸せだと思うよ。僕も脚があれば彼女と踊れただろうか。普段は生まれた頃からない脚に負の感情を抱いてはいないのだがあの笑顔を窓越しじゃなく顔が触れ合ってしまいしそうな距離で見たいと思った。愛しい人、僕も連れていっておくれ。
【形のないもの】
そういえば形見…残ってないね。思い出せるものが一つもないなんて悲し過ぎるよ。亡くなった姿すら人様に見せられる姿じゃなかったから残ってるのなんて遺影ぐらい。頑張って生きてきた人の最期がこれだなんてあんまりだよね。せめて死に様を選べたらな、なんてあり得もしない事を思う。悲しいね。
【ジャングルジム】
昔はこれが迷宮に見えたもんよ。巨大な迷宮。気分はテセウス。アリアドネはいなかったけども。何せねぇ野郎共が好き勝手やってるガキ時代だもん。そんなんさ。ミノタウロスはいたぜ。いじめっ子のガキ大将。いつでも上にいたそいつを数の暴力で引きずり落とした。泣きながら帰ったそいつを泥だらけの俺達は嗤ってやった。そして、熱く拳をぶつけ合う。よく考えると中々に残酷だよな。いじめてたとはいえ一人に数で勝ってやったんだもの。それにアイツ傷付いて引っ越したしな。共通の敵で団結しただけの悪ガキが俺達って訳。正義なんてありゃしない。自己満足さ。
【声が聞こえる】
秋。肌寒いなんて思うのも消え去った残暑が延々と続く四季の中で儚い存在となりつつある季節。この時期を迎えると空しさが心を支配する。普段から空虚なのに。また、彼女の元へと向かう。墓前に線香を供えて手を合わせる。線香の香りで現実を叩き付けられて気が狂いそうになるが生きている俺に出来るのはこれだけ。いつでもいつまでも思う。先輩は何を望んでいるのだろう。復讐じゃない事は知っている。興味すらないのが本心だろう。あの人はそういう人だ。でも、俺は一族の為にやりとげたいんだ。
「好きにしてもらって構わないよ。私の役目は終わったからね。亡者は亡者らしく安らかに眠るよ」
そんな都合のいい声が聞こえてきた気がした。先輩…。墓に手を伸ばしても何も掴む事はない。