【雨に佇む】
冷たい雨が全身を濡らす。校舎から同級生達が心配そうにこちらを見ているが豪雨に落雷。彼方はそうそう近寄れず、此方は様子がろくに見えなきゃ声なんて聞こえもしない。そんな危険な天気の中、どうして突っ立っているのかって?希死念慮に近しいもの。こうしている時にだけ素になれる。風邪を拗らせて死んでしまえばいい、雷に打たれて死んでしまえばいい、体温低下で死んでしまえばいい。自暴自棄。どうしようもない悲しみを抱えている。だが、泣きたくても泣けない。だから、涙の表現に用いられる雨に打たれる事で擬似的に泣いているともいえる。正気じゃない。マトモじゃない。分かってる。でも、やめられない。寒さで体力が減っていくが気持ちがほんの少しだけ楽になるんだ。割に合っているか。そう問われると効率は最悪だと答えられる。この感情を気象で隠さずに表に出せたら救われるのに。
【私の日記帳】
これは私の日常と心情を詰めた私の片割れの様なもの。喜びも悲しみもくだらない事も全部全部詰め込んだ唯一無二の代物。毎日つけている訳じゃないけれども読み返せばその時の事を思い出せる。喜びで頬をほころばせ、悲しみを思い出して傷付いてもその時よりは成長した私なら笑い飛ばせる。くだらないのも日常だと思う。今日もそんな片割れに日常を綴る私なのであった。
【向かい合わせ】
信じていたのに。鏡合わせの二人だと思っていたのに。向かい合わせの存在でずっと手の平を合わせていられると思ったのにアイツは裏切った。組織に属した。最後の言葉は「僕は利のある方を選ぶ」その続きにお前も来れば良いと言われたが手を払う気にも怒鳴る気にもならずただアイツを睨んだ。「そう。じゃあね」と表情一つ変えずに背を向けて去っていった。冷淡な奴だとは思っていたがここまでとは思っていなかった。裏を返せば僕はそこまで冷淡にいられないという事。そうか、もっと非情にならないといけないのか。僕は暗殺者。職に対する意識が足りていない。それを見せつけられた気がした。誰もいない事を確認して僕はそっと蓋をしていた本音を呟く「友達になりたかったのに」と。
【やるせない気持ち】
どうして娘があんな姿になって帰ってこないといけないんだ?独り善がりの感情で滅茶苦茶にされてこんな…こんなっ…!体温のない手を握る。遺体は顔以外はあまり見ない方がいいと言われた。実際、握った手の爪は割れていたり、剥がれたりと痛々しい。あの娘がストーカー被害にあってるとは知らなかった。親を頼るのは恥ずかしいと思った強い意思なのか。唯一の肉親である私を巻き込みたくないと思ったのか。三日前に見た最後のあの笑顔の裏には溢れんばかりの不安を抱えていたのか。たらればが脳を満たす。もっと会話をしていれば、妻が生きていてくれれば、私に頼りがいがあれば。無意味だと分かるがこの止めどない後悔をやめられはしない。二度と動く事のない手を離す事なく、さめざめと泣いていた。
【海へ】
僕は海というものを知らない。山奥の箱庭育ちだから。興味はあるけれども冒険する気概がない。好奇心で死んでしまう猫になれない愛玩犬といった所。可愛そうだとは言わないで。安定はそれだけ幸福な事なのだから