＿＿ミーン、ミーン、ミーン。

　庭から聞こえてくる鮮やかな声に、聴覚は釘付けになる。
　木で作られた縁側に広がる緑の香りに、嗅覚が奪われる。
　口で刺激してくるスイカの薄い甘さに、味覚は使われる。
　手首を垂れる水の感触に、触覚は微妙な不快感を覚える。
　目の前を通るささやかな風に、視覚は、少し目を細める。

＿＿緩やかな、夏。

　ここは、あの人と過ごした大事な場所。
　ここ以外の場所など、有り得ない。

　あの人が旅立ってから、数年がたっていたとしても、私はここ以外の場所を拒絶し続ける。
　お母さんやお父さんは、それに反対するけど、水と油が分離するように、私はここ以外の場所に行けないんだ。

　それを分かって欲しい。

　あわよくば、あの人が戻ってくる日が来んことを。

「…まあ、帰ってこないだろうけどね」