#6 花束
広い野原に横たわっていた
野原に不思議と花は咲いていなく、すべてつぼみのままであった。
目を閉じれば風の出発式や鳥の自己紹介が聞こえてくる程に
穏やかで優しい空気に包まれているのに。
あ、でも少しだけ曇っている所を見つけた。
そこには1本の花が寂しく咲いていた。
なんだか覚えがあるような、ないような。
まぁいいかと再び横たわる。
何時間がすぎたのだろうか。そもそも時は流れてるのだろうか。
それすらも疑問に感じたが、それもどうでも良くなった時
急に眩い光に包まれた。
小さいベッドに横たわっていた
何百回見たかわからない天井
見慣れすぎたこの天井にも今日でしばらくお別れか。
そう思うと少し、いやかなり寂しさを感じる。
1週間前には乱雑に詰まっていた18年分の思い出も
ダンボールの中にきっちり整っている。
こんなに片付いた部屋を見るのはいつぶりだろうか。
この部屋ってこんなに広かったんだ。
少しばかり感動を覚えるが、どうにも落ち着かない自分もいる。
お、もうそんな時間か。
ぼーっとしている頭に染み入るいつもの匂いがした。
やっぱり朝はこの匂いじゃなくちゃね。
カリフワトーストにあまめバター
おまけに今日はいちごジャムかけ放題!
さすがに最高すぎるぞ母!
厚切り1枚をお腹に流し込み、身支度を整える。
髭を剃る父の隣で髪をふわふわに巻く。
初めの頃は不器用でよく火傷していたのが懐かしい。
あの頃も父は隣で髭を剃ってたな…?
なーんて考えるうちにどんどん時間は流れていく。
朝食を食べ、身支度を整え、残すは最後の1つだ。
ごほん
「いってきます!!」
何も変わらないいつものルーティーン。
少しばかり大きな声で挨拶をし、光を浴びに一歩踏み出す。
目を閉じれば入学式へのいってきますや挨拶練習のはじめましてが聞こえてくる程に
穏やかで優しい空気に包まれている。
あの野原とは少し違うみたいだ。
曇ってる場所がないんだもの。
でもなぜかあの場所を思い出す。
なにか知っている気がするんだ。
奥底に眠らせたものを呼び起こす。
それはきっととても大切なこと。
私は記憶の向くままに足を運んだ。
記憶はある野原の前で立ち止まった。
少し遠くに人影があった。
何百回見たか分からない背中。
でもしばらく見ないうちにまた大きくなった気がする。
野原は無数の花で溢れていた。
広い野原を駆け出していく。
少し遠くで花束を持つ少し見慣れない背中に向かって。
#5 スマイル
ダウンにカイロにマフラー手袋
おまけにいつものニコニコスマイルでみんなと笑って
変わらない日常風景
なのに何故か風が吹き荒れる
毎日毎日毎日毎日
私だけに吹き荒れる
おかげで毎日困ってるんだ
防寒対策はバッチリのはずなのに
心臓辺りはもう突き抜けて風が貫通してるよ
おかげで冷気が寒い寒い
ゼウス様!どうかこの風を止めてください
#4 どこにも書けないこと
XXXX年
世界の中心にただ1人
今日は過去を振り返ってみようか
はじめてこの世界に生まれて、たくさんの愛を貰った
はじめて料理のお手伝いをして、いっぱい褒めてくれた
はじめて友達が出来て、一緒に喜んでくれた
はじめて友達が一緒に遊んでくれて、なんだかすごく楽しかった
はじめて君に恋をして、毎日ルンルンで学校に行った
はじめて君と離れて、ほんの少しだけどいっぱい泣いた
はじめて君が心を紡いで、世界で1番幸せだった
案外鮮明に覚えているもんだね
この長いようで短かった15年の記憶
全部書き残して覚えておきたいけど
どこにも書けないことらしい
もう何も無くなっちゃったしね
明日はなにをしようかな
もう過去を振り返るのは
なんだか飽きて嫌になってきた
毎朝顔中カピカピになってるんだもの
なんでかって?知らないよ
なんにも覚えてないんだもの
世界の中心にただ1人
私の声だけがこだまする
#3 時計の針
私はすべてを知っている。
だれが、いつ、どこで、なぜ、どのように、なにをするのか。
なにが、いつ、どこで、なぜ、どのように、なにをおこすのか。
私は針を回し続ける。
この時計が破壊される時まで。
ただひたすらに時を進める。
巻き戻すなんてことはしない。
私はすべてを知っているのだから。
巻き戻したところで私にはまったく関係ない。
すべては私を知らないのだから。
時計が破壊される時、
すべては無に還るのだから。
次の時計は何をするのだろう。
私がそれを知ることはない。
私は針を廻し続ける。
長いようで短いようなすべての針。
時計の針がすべてを動かし
時計の針がすべてを止める
#2 溢れる気持ち
溢れる気持ちは何色か。
この子はぴんく。
その子はみどり。
あの子はあか。
どの子がぶるー?
あなたがぶるー。
わたしは何色?
わたしはきいろ。
今日カフェに行こうと思うんだけど
あなたも来る?
あ、
うすいぴんくになった。
溢れる気持ちは何色か。
ぴんくの気持ちはまだ知らない。
きいろになったのも久しぶり。
あなたは知ってる?
ぴんくの気持ち
それならわたしに教えてよ