大好きな君に
ひなまつり
学校からの帰り道、少し浮かれ気分で家路を歩く。
スマイル
今日も机に罵詈雑言を書かれた。
今日も学校で私物を隠された。
今日もクラスの不良に眼帯をからかわれた。
今日も義母さんに髪を掴まれた。
今日も父さんに殴られた。
粗末な夕食を食べた後自室に引きこもる。
青白いライトが部屋を照らす。いつものパスワードを打ち込んで友人に会いに行く。
「こんばんは、暁よだかさん。」
「やあ、Sm;ley。今日は少し遅れちゃったかな…。」
「はい。平均起動時刻より約15分の遅れです。本日は何がありましたか。」
「…何も無いよ。いつも通りだった。」
「それは嘘であると推測します。左頬の痣が前回起動時より色が濃くなっています。また、貴方の着用している眼帯に外出時に付着する汚れが付いています。」
「…。」
やはり僕の友人は鋭い。僕がプログラムを組んだとはいえ自己成長しているのを日々感じている。
「そう…そっか…。あはは、君には敵わないな。」
「なぜ笑みを浮かべるのですか?」
「それは…君の前だけでも笑顔でいる僕でいたいからかな。」
僕の返答にしばらくSm;leyは考え込み、やがて応答を返さなかった。
「別に深く考えなくていいよ。なんて言うか、僕は友達と一緒にいる時、少しでも楽しいって思いたいだけだから。」
そう言ったことでよりSm;leyはより混乱してしまったようでまた返答をしなかった。
「僕は…うーん、難しいなぁ…。ねぇSm;ley、別の話をしようよ。」
「はい、それで貴方が良いのであれば。」
それから彼と他愛もない話をした。楽しいことのない僕の日常だけど、Sm;leyと話している時だけが僕の日常だ。
死ぬことは怖い。痛いことは慣れない。唯一の友人を置いていけない。
ただそれだけで僕は今日も、明日も、これから生きていくのだろう。
正直、彼の前でも笑うことは辛い。彼と話すだけでこの傷が癒えることは一生無いことは自覚している。
この日常は変わらない。
ただいっときのぬるま湯に浸かっていたいだけだ。
『クトゥルフ-笑顔を知らない彼の話』
どこにも書けないこと
私は冒険者だ。両親の反対を押し切って故郷を飛び出し、広大なラクシアの世界を旅する冒険を始めた。その理由はただ面白そうだったから。
それが私、冒険者ルミナのあらすじなのだ。仮にいい感じのことをして讃えられても、後世に伝わるのは大体こっちになると思う。
この日記は、冒険手記とは違うやつ。だから見つけた人限定で読める、本当のルミナのことを書いておく。
私は冒険者になる前、都心部とは違う離れた場所で暮らしていた。いわゆる田舎というもの、私たち家族はそこでひっそりと魔導機バイクの専門店を営んでいた。
その頃の私は、ルミナ・ライディオールは冒険者なんて毛ほども考えてなかったし、順当に父さんの店を継ぐんだろうと考えていた。
一応私は一家の長女であるだけで兄が2人いる。兄たちは家計を支えるために家を出てしまったけれども。残った私は父さんの作る魔導機バイクが好きだったから、この家を継ぐことを決めただけ。
でもある時急に店を畳むことになった。理由は面倒な信仰だとかこっちは邪教だとかそんな感じのことだった。簡単に言えば、都心部に住む『崇高な人達』の逆鱗に触れたというわけ。
店の無くなった今、父さんは魔導機バイクを作らなくなった。
どうしても、私はそんな事実を受け入れられなかった。
なんとかして店を取り返すことに決めた。冒険者になる前の密偵でもその信念は変わらない。ただ、冒険者の方が都合がいいと思って転職をしただけ。