見渡す限りの赤、白、黄色、橙、桃色、紫、黄緑。
私は、花畑に飛び込んだ!
花は弱い。
当然耐える力もなく、私は地面に叩きつけられる。
花の目線で花畑を見ると、意外と茶色い。花の匂いは嗅がないと来てくれないけど、土の匂いはいつの間にか目の前にいる。服に色が付く。赤、緑、そして茶。髪の毛に土が入り込む。頭皮に小石がめり込む。太陽が眩しい。背中を、腕を、這う感触。飛び起きて全身をはたく。つぶれてちぎれた植物がつくる私のドッペルゲンガーを見下して、ビルを目指して歩いた。
あーあ、魔法が使えたらいいのに。
祖父の散骨の日程が決まった。
さっき、母から家族のグループLINEに「ファミリー散骨プラン」のリンクが送られてきた。船では音楽をかけられるが、母は実の父が好きだった音楽を知らないらしいので、プリンセス・プリンセスでもかけてリズムに合わせて投げよう、などと笑っていた。花などのオプションもあるが付けないそうだ。まあ、祖父がそういうものを望むとは思えないのでいいと思う。
思い返せば、葬儀も簡素なものだった。しかし祖母の涙につられ、母はもちろん私を含む孫はおろか、祖父と血の繋がっていない父まで涙を見せた。
さらに遡ると、祖父の亡くなった日。私はバイトをしていた。バイト直前に訃報を知り、そのままバイトに行けと言うので終わってすぐ帰ると変わらず家族がいた。特に重苦しい雰囲気は感じられず、母は手続きか何かで少し忙しそうにしていた記憶がある。
葬儀以外で、母の涙は見ていなかった。
うちの家族、カラッとしたとこあるし、と思っていた。
亡くなった日から葬儀の日まで、母が毎晩泣いていたことを知ったのは最近だった。
私は、世界に一つだけの存在
貴方も、世界に一つだけの存在
あの人も、この人も、世界中皆、世界に一つだけの存在
それじゃあ、みんなと同じじゃないか!
私は唯一の存在になりたいんだ!
まてよ、
この世の全ての人間が世界に一つだけの存在ならば、
世界に二つだけの存在は唯一の存在なんじゃないか?
私は、クローンを作った。
「……という訳で、これで私は唯一無二の存在だ」
「いや、2人目作っちゃったら無二じゃないだろ」
クローンに論破されたショックで、しばらく寝込んだ。
夏祭りで、和太鼓の演奏を聞いた
練習量を感じさせる、大きな声と揃った音色
体の真ん中まで揺るがす空気の振動
その波形は、私の鼓動の波形とぶつかった
私は酷く気持ちが悪くなった
しばらくすると、待望の花火の時刻だ
人混みを避け、フェンスの隙間から見る穴場に陣取る
……しまった、これもだ
大きな音の波は鼓膜と共に内蔵も震わせる
胸の鼓動を乗っ取って、呼吸のリズムを滑らせる
心を震わせるって、そういうことじゃないんだけどな
Live Photosで揺らめく花火は、綺麗だった。
会議は踊る、されど進まず
ナポレオン戦争後のウィーン会議を揶揄してつくられた言葉。私はてっきり、話がコロコロ変わって何も決まらないというニュアンスだと思っていたが、本当にダンスばっかりしていたかららしい。
ダンスしながらだと、悪いことなんか言えなそうだ。実際、めっちゃ踊ってはいたけどけっこう戦後の平和に貢献したらしい。
同じリズムで、足を揃えてステップを踏めば、意見も揃いそうだ。レコードのグルーヴ感に酔って、全てYESだと首を振れば、縦ノリのフロアの完成だ。
会議は踊るように進む。
さあ、君も一緒に。