紅茶の香りがする。
アッサム? アールグレイ? それともダージリン?
よく分からない。だってわたしはコーヒー派だもの。
そんなことを思いながら、私も飲んでみる。
(......うん、やっぱり葉っぱ感がすごい)
君が紅茶好きって言ってたから。
つい自分も、なんて言っちゃって。
無理しなきゃよかったかなぁ...。
でも、カップを傾ける君の姿は随分と絵になる。
見られて良かった。
そんなことを思いながら「おいしいね」なんて、言ってみせた。
合い言葉とかけて、愛の言葉で「愛言葉」
ウマイこと言ったもんだと思う。
まぁそんな甘酸っぱいもの、わたしと君の間にはないのだけれど。
柄じゃないにも程がある。
そう言って笑い合うのも悪くないよね。
「早く忘れなよ」なんて、簡単に言ってくれる。
励ましの言葉だと理解している。
けれど、そろそろ鬱陶しくなってきた。
なんとか元気付けようと、何とか捻り出された言葉にすら、苛立つ自分。
そんな自分にも腹が立つという負のループにハマっている。
忘れたくても、忘れられない。
この言葉に尽きるのだ、とりあえず。
まぁ、そもそも「忘れたい」と思ってんのかって話なんだけどさ。
「忘れたくても、忘れられない」なんて、忘れたくなった“としても”難しい、という仮定の話であって。
わたしは、本当に、忘れたいと思っているのだろうか。
まずはそこから、考えねばなるまい。
靴のまま水溜まりに入ること
虫を素手で捕まえること
ケシカスでねりけしを作ること
ドッジボールのルール1つで大喧嘩になること
自由帳だけで何時間も遊べること
物語の続きを自由に想像できること
花丸のために必死に頑張れること
子供の時は当たり前だったことが、当たり前じゃなくなったのはいつからだろう。
境界線はどこにあったんだろう。
子供のようになれたら、と思う。
その反面、それらができなくなった自分はもうすっかり大人なのだと。
時々、そう思う。
「小テストの結果どうだった?」
「...30点」
「出る問題分かってたのに、よくそんな点数とれたね」
「むしろよく3問当てたと思うよ私は!!」
くだらない話。笑い話。失敗談。とりとめのない話。
天気、テスト、部活、ご飯、友達、エトセトラ。
話題が尽きることはない。
帰り道、時計の長針1周分にも満たない時間。
私と君の時間は、変わらない。明日もきっと。
明日も、明後日も、来週も、1ヶ月後も変わらない。
なら、来年は? その次は? 違うクラスになったら? 卒業したら?
......君に、恋人ができたら?
それがイヤなら、イヤだと思うなら。
イヤだと感じてしまうなら......。