今日は、まだ何もやってなかった。
午後6時までのログインボーナスに、
運良く間に合った5時。
ログインして、
ミッションを一通りこなしても、
集中力は欠けている。
「お疲れ様です。
今日はお休みします。」
メッセージを送信
今日は、で良かったのかな?
週末だとは感じていたけれど、
8月も今日で終わりということに、
送ってから気付いた。
何か始まった気がしていたけど、
何にも始まってもいないのに、
止まったまま。
しんどいな
夕凪が終わって、
風が少し吹いたのを感じて、
虫の音が聞こえ出す。
「多分、明日も休みます。」
このまま風が運んでくれれば、
あなたの受信箱に届きますか?
#79「8月31日、午後5時」
不確かな未来に
足りないもの
両手で掬い
不完全なままでも
助け合って
凛として
不自然と言われても
他勢に耳を貸さず
両片想いでいましょうね
#78「ふたり」
「生まれてきてくれてありがとう」って言う
偽物の母親が作る料理は
いつも一手間かかって美味しくて
「がんばってえらいね」って
上手くいかない時も
ぎゅっと抱きしめてくれる
テストの点数が良かった時は
頭を撫でてくれながら
「お勉強が好きなところはお父さんに似たのね」って微笑む
偽物の兄はとても頼りがいがあって
普段は無口でも、困った時は助けてくれる
夜、帰りが遅くなると
ふいに仏頂面で現れて
「心配かけるな」って
ぎゅっと少し痛いくらいで握りながら
手を引いて一緒に帰ってくれる
本物の父は、感情の起伏が激しくて
アルコール依存症で
本物の母と本物の兄には手を挙げなかった
私にだけ、その拳は振り下ろされた
本物の父はとても弱い人だった
本物の父はどうしようもないクズだと思ってた
なのに、私の中には
どうしようもなく
本物の父がいる
偽物の母親と偽物の兄とともに
本物の父だけが私に最後に一言
「生きろ」と言った
#77「心の中の風景は」
雨上がりの土手に
猫じゃらしが揺れる
ぺトリコール
「彼氏にしてあげよっか?」
魚が跳ねる
「え?!」
二度と言わない
猫じゃらしを1本摘み取って
渡す
「何それ?」
「猫じゃらし」
思わず手に取った彼の姿が
おもしろくて笑った
「夏、終わんないね」
「早く寒くなるといいな」
冬の匂いがしたら
手を繋いで
今度はちゃんと
「好き。」って言おう
#76「夏草」
このところ塞ぎ込んでるキミの
知らないところでさ
キセキが起きたんだ
朝、使ったはずの化粧水のボトル
無くして困ってた
部屋中探しに探しまくって
買えば済む話じゃないんだ
特別な思いがあった訳じゃないのに
ただ、毎日ここにあるって当たり前が
無くなったことが
悔しくて
置きそうな場所全部
置かないであろう所も全部
隅々探し回って
朝、キミに川辺の画像を送っておいた
川で犬とカヌーしてる人の画像
返信が無くても待っていたよ
そこからの記憶は曖昧だ
化粧水のボトルの在処が
思い出せない
夕方、激しい雷雨
キミが怖い思いをしていないだろうか
メッセージは送らず祈ってたんだ
雨上がりに
キミからの通知が届く
メッセージは無い
鉄橋にかかる虹の画像
言葉はなくても歓喜して
ふと見れば
机の端っこに
化粧水のボトル
転がってた
これって、キセキだろ?
キミが起こしたキセキだろ?
#75「ここにある」