ベッドと布団の間に挟まれて 瞼の裏の闇に
浮かんでくる景色に 悩まされる夜がある
明日には明日の風が吹く と言われるし 過ぎたことを悔やんでも仕方が無いとも言われる
それでも 生きた1秒の瞬きすら全てが美しくて
過ぎたからと言って捨て去るには あまりにも大切すぎる
つまり 過ぎた日々を想わないことなんて 不可能なのだ
壊れたからと言って簡単に捨ててしまえないように
死んだからと言ってすぐに忘れられないように
後悔の一瞬でさえ すべてが宝物
だから眠れない夜は 通り過ぎた人の人生を考えてみる
あなたには今日、どんな幸せがあっただろう
悲しいことや許せないことがあった?
素敵な服、素敵な髪、素敵な香りに 素敵な詩
それぞれにどんな思い入れがあるだろう
自分の過ぎた人生が 輝いて大切なように
考えるほどに あなたの人生も大切に思えてくる
あなたの人生が 過ぎた日々から彩られていくように
それを見た私の人生も あなたによって少しずつ彩られてゆく
暗い色も 明るい色も 透明だってある
これから先のわたしのキャンパスの一角には きっとあなたの色が乗るだろう
素敵な明日に出会うために 過ぎた日を想う
過ぎた日を想う
「赤い星は早くに死んでしまうらしい!」
突然ドアを蹴破ったと思うと、彼女は後ろで手を組みながら人を苛つかせる笑みを浮かべ、大股でこちらへ歩み寄ってきた。
毎日毎日、眉唾の豆知識を得てはそれを自慢げに教えてくるものだから、いつのまにか私も楽しみになってきてしまっていた。どうやら、最近は宇宙への関心が強いようだ。
「はぁ。ドアを壊すのだけはやめてくれよ」
「わかってるわかってる!それで、君は赤い星は既に死んでいるから赤いのか、死にそうだから赤いのかどっちなんだと思う?!」
顔が近い。息がかかって不快だ。
顔を掌で押し除けるようにして遠ざけつつ、彼女の話を反芻してみる。
赤い星はたしかペテルギウスとかアルデバランとか、そんなのがいたような気がする。赤色矮星は温度が低いだとか超新星爆発の直前は膨らむだとか色々思い出してみたけど、早くに死ぬというのはどうにも思い出せない。本当だろうか?
彼女はしてやったりと口角をあげてこちらを見ている。なんだかむかつくし、思い出せないし。今日はきっと降参の日だ。当てずっぽうにしよう。
「わからないけど、赤い星は既に死んでいるんじゃないか?こちらにそれが届くのが遅いだけで。」
「フーン。ロマンがないなぁ、じゃあなぜ赤い星は早くに死ぬのだと思う?」
「まだ続けるの?今日はいつもよりおしゃべりだね。
そうだな、初めから星の才能がないんじゃないか?それか、そういう運命だったとか。他の星より温度が低いし。」
「はは、なんだ星の才能って!そんなものが無いと星座にいる資格がないっていうのか。まちがえてた、君はずいぶんロマンチックでメルヘンな思考をしてたみたいだ」
「ばかにしてるのか?」
普段なら豆知識を披露して、一言二言議論すれば満足して帰っていくのに、今日はやけに話を続けたがる。そういえば彼女はいつもより落ち着かない様子で私の発言を聞いているし、それも何かを訴えかける目をしている。
何か思惑があるらしい、が。
やはり顔が近い。なんなんだ今日の彼女は!
「きみ、言いたいことがあるなら言えよ。最近は宇宙の話ばかりするし、なんだか星について私から言わせたい言葉でもあるっていうのか」
やはり顔を押しのけつつ質問を続けると、彼女は少しだけ後ずさり涙目で痛めた頬を右手で撫でている。貴重な放課後をこんなくだらない議論に付き合ってやっているのになんだか不満そうだ。
「別に。不快にさせたかったわけじゃないが!」
一呼吸。
不満げだった顔を少しだけ真面目な顔にして、彼女はずっと後ろ手に隠していた左手を勢いよく私の目の前に突き出した。
その手には可愛らしくラッピングされた小さな赤い箱が握られている。
「あ。」
そういえば、最近やけに彼女が落ち着かないと思っていたら、今日は私の誕生日だった。
素直じゃないから、なかなか言い出せなかったのだろうか。
「誕生日、おめでとう!ずっと考えてたんだけど、やっぱり君は私にとっての星だから。ネックレスにしてみたんだ。」
普通そういうのは私が中身を確認してからいうものだと思うが、耳を赤く染めているいじらしい彼女に免じて言わないでおいてやろう。
「ありがとう。それにしても誕生日に星が死ぬ話なんて、穏やかじゃないなあ。」
「それについては、君が何を言っても肯定できるように考えてきてたんだ!それはねえ!」
「赤い星はわたしたちみたいだって?」
「ち、ちがうよ!まあ、赤い星みたいに早く消えちゃうとしてもさ。星の才能がなくても、既に死んでいたとしても、私達は今燃えているし、それが宇宙の遥か遠くに届くまではいつまでも星座でいられるんだよ。
命はいつか消える。なら、消えるその瞬間まで赤く輝いている方がきっと素敵だ。と私は思うんだ」
「えーと、つまり?」
「私たちは赤い星みたいに少しずつ愛の熱で燃えてくってことさ!」
「絞り出したにしてはずいぶん陳腐な告白だね。まあいいけど。じゃあ今日は君の方がロマンチックでメルヘンだってことで、そろそろ帰ろう。」
彼女の痛めた右頬にキスを一つ落とすと、彼女は目を見開いて両手をあげた。降参するらしい。オドオド動くのがあまりにも可愛いので思わず笑ってしまったのを隠したくて、急いで立ち上がって荷物を持ち入口へ向かうと、後ろから彼女の抗議の声がした。
「イー!ずるいって!!帰るけどさ!」
耳どころか顔全体を真っ赤にした彼女が帰り支度をするのを待ちながら、貰ったネックレスを眺める。何かの星座を模っているようだが、知識が無いので形からなんの星座かはわからない。赤い点がついているから恐らくおうし座かさそり座とかなんだろうか。
まあ。なんだっていいか。私には宇宙の遥か先まで燃え続けるような、そんな馬鹿な一番星がいることだし。
赤い星は早くに死んでしまうらしいが、それがいつ消えてしまうかなんて誰にもわからない。星が赤く光っている限りは、それはずっと星座の一部であるのだ。
だから誰に認められなくても私たちは、ずっと一緒だ。
星座
夜になるとなんだか憂鬱な気分になってしまうから
少しだけ踊ってみたいと思いませんか
ステップを踏む足がなくても
腰に回す腕がなくても
見つめ合う瞳や
囁く唇がなくても
こうして心を通わすだけで
遠くからでも踊っていられるんです
あなたの心の声で歌をうたって、
あなたの思ったステップで言葉を刻んで、
私と踊りませんか?
踊りませんか?
あなたの食べこぼしたかけらに蟻が社会を作り
その蟻が食べこぼしたかけらに更に微小な社会ができる
食べてきた食事と眠った回数は全て安心のかたち
積み重ねてきた幸せのかたち
あなたが落とした幸せのかけらが誰かの幸せを作っているから、どうか自分を不幸だとは思わないで。
もし巡り会えたらあなたから
もらった幸せの分だけあなたに返したい
しあわせをありがとう!
巡り会えたら