7/20/2024, 11:50:50 AM
貴方が呼んでくれる名前。
それはとっても特別で、甘美なもの。
例え他に同名がいようが、貴方がそうやって呼んでくれるのは私だけ。
嫌いな人に呼ばれる名前。
まるで私が私じゃないように感じてしまう。
貴方が呼んでいるのは本当に私かしら。
名前が一緒なだけの他の奴じゃないかしら。
もう読んでくれなくなったその名前。
貴方の身長より遥かに小さい額縁に囲まれた貴方の笑顔を見て思い出してしまう。
貴方の顔、香り、柔い肌、私を写してくれるその綺麗な瞳。
笑顔の貴方の隣は私じゃないの。
知らない男の人。薬指にはめられた指輪は貴方の薬指にはめられている物と同じ。
私の指にははまりそうにないその鉄塊。
貴方の声はとうに忘れてしまった。
「クロ、おいで。」
その名前で呼ばないで頂戴。
私にはもっと特別な名前があるのよ。
ねぇ、もう一度呼んで頂戴よ。
____にゃあん。
悲しそうな黒猫の泣き声が、小さな額縁に染み入った。