【君が隠した鍵】
記憶の鍵・扉の鍵・逃避・禁忌・部屋の鍵・優しさ・苦渋・羞恥・心の鍵
開けちゃダメだよ。君はそういってふわりと微笑んだ。ダメだ、と言われたら見たくなるのが常だ。君の目を盗んで中を覗いた。途中まで飲んだカプセルが入っていた。1年前に期限は切れている。
ああそっか、君はもういなかったんだっけ。
君が隠していたのは錠剤。君はもう亡くなっており、語り手は幻想を見ている。
【手放した時間】
諦観・成長・決別・後悔・大人・別れ・涙・忘却・日記
ベッドに横たわる君。頭の隣には日記がある。君はきっと、想い出を携えて空へ行くのだろう。さようなら。どうか来世では、大切な時間を掴んでね。
【紅の記憶】
口紅・キス・恋・失恋・女・男・愛・美・ファッション・服・性・印
スーツの首筋に、紅いリップマーク。素知らぬ顔の先輩は、今日も格好良い。少し離れたところの影から、女がこちらを見ていた。所有物を盗られないように。
語り手(女)は先輩(男)のことを好いている。しかし先輩(男)にはすでに彼女がいて、彼女は語り手を警戒している。
【遠くの空へ】
2対の紙飛行機が飛んでいる。
なぁ少年、知ってるか。
大人ってのはな、成長するたびに汚く醜くなっていく。
好きだったものとか、大切だったものとか、やりたいこととか、そういったもんが、全部抜け落ちてく。
出来ることとか、やらなきゃいけないこととか、逃げ道だとか。そんなもんばっか積み重ねて落ちぶれていく。
風に揺られて飛んでいく。
ふと思うんだよ。俺がしたいことはこんなもんなのかって。
ため息が空に溶けていく。
必死に勉強してさ。大手商社に登り詰めて。毎日怒られて。
やってらんねぇわってさ。思わず家族にも手を出しちまって。
遠く飛んだ一対が衝突し、先がひん曲がった。
嫁さんにも逃げられ、会社も辞めちまって、ここにいる。
お前さんはこんな大人になるなよ。
飛ぶ飛行機は遠く、遠く、次第に見えなくなっていく。
じゃあな。それだけ言い残して男性は去っていく。
誰だったのだろうか。少年は恐怖を覚えつつも、遠く飛び去った紙飛行機を追いかけた。
ふと空を見上げた。そこには大きな大きな、青が広がっている。