【 キャンドル 】
暗闇に、小さな炎がぽっと灯る。
あちらでは、弱い炎が揺らめいて消えた。
新たな生命と臨終の命だ。
番人をしていて思う。
ヒトは、儚い生涯を懸命に生きて、何を為すのだろう。
灯された炎は、風もないのに揺らめいて、
人生の岐路などの不安定さを示す。
ふらふら、ゆらゆら、何を目指しているのだろう。
番人には、そんな思考すら不要だ。
ただ、何者からも邪魔されぬよう、見守るだけ。
今日もまた、点いて、消えて。
輪廻の数すら忘れ、ただ見守るだけなのだ。
【 たくさんの思い出 】
死を迎えない体を持つ私は、当然、一所には留まれない。
場所や顔、経歴もその都度変わる…いや、変える。
その場ごとに様々な経験をするが、
楽しいこと、辛いこと、どれも忘れられないのは、
良いのか悪いのか。
私だって、湧き上がったこの気持ちを分かち合いたい。
過去を振り返って、同じ気持ちを共有する仲間と
語り合ってみたいものだ。
だが、許されない。
語りたい相手である彼らは、もういないのだ。
学生時代と姿の変わらない私と、誰がするものだろうか。
私はいつも、独りで抱えて、思いを馳せる。
【 はなればなれ 】
どこへ行った?
どうにも落ち着かない気分になって仕方が無い。
あるべきものが、あるべき場所にない、この不安感。
早く探さなくては。
このまま見つからなかったら、生涯絶望を味わうだろう。
早く…早く…!
……おや?
何故こんなにも落ち着かないんだ?
無いからといって、生きるのに差し支える訳でもない。
なのに、どうして…?
それもそのはずだ。
探していたのは、魂の半身だ。
失って初めて気付くとはよく言うが、まさにそうだ。
あんな思いは、もうたくさんだ。
【 子猫 】
好きな動物を聞かれて、いつも『猫』と答える。
そっけない態度、でも寄り添いに来たり。
気ままな感じがたまらない。
君との出会いは雨の日だった。
公園の片隅で、震えながら丸まっているのを見つけた。
手持ちのタオルで拭きながら、急いで家に帰ったなぁ。
やんちゃな時期になると、家中走り回ったり隠れたり。
もう少し大きくなってからは、美猫にふさわしくなった。
君と最後まで連れ添いたかったけど、叶わないかも。
まさか、自分の方が先に逝くのかもしれないなんて…。
それでも、大事な君と離れたくない。
いずれは誰かの世話になることは分かってるけど、
君を感じていたいんだ。
鳴いて、存在を主張してくれたあの時から、君の虜だよ。
温かいなぁ… ふわふわだ…
今日も、腕枕で一緒に寝ようね。
【 また会いましょう 】
初めて会ったのは、夢の中だったかな。
小さい頃だし、記憶も定かじゃないんだけど。
黒い服がよく似合う、今で言うイケメンな人。
子供心に初恋だったなぁなんて、そう思えるくらい。
あれから成長して、その人のことは忘れた頃、
また会えたの。
顔だって覚えてたわけじゃないのに、
確かにあの時の彼だって断言できる何かを感じたんだ。
それが何なのか、今ならはっきり分かる。
わたし、彼に連れて行かれるんだね…。
そういえば、約束してた気がする。
夢の中で彼が、『また来るよ』って。
守ってくれたんだ。
じゃあ、わたしも応えなきゃね。
来てくれて、ありがとう。