【 声が枯れるまで 】
もう、限界だよ。
いつからだったか覚えてないくらい、長い時間が経った。
ずっと、ずーっと、叫び続けてるのに。
誰一人、振り向いてはくれない。
聞こえないほど音量が小さいのか?
雑音にかき消されてるのか?
大事なことだ、心配になる、我慢しないで、なんて、
みんなが優しく教えてくれるのに。
届く気配が微塵も感じられない。
透明な耳栓なんて、この世にあるとは思ってなかったよ。
『助けて』の言葉は、そこに溶け込むものなんだね。
【 始まりはいつも 】
いい加減、学習した方が良いのは分かってる。
自分の悪いクセだと自覚してるのだから。
一目惚れして、一筋に向き合って、でも終わりを迎え。
なのに飽きもせず繰り返す。
神様のイタズラという運命を、避けて通れるわけがない。
美しく洗練されたその姿に、心惹かれるのは当然だ。
磨くほどに輝きを増し、自身が花開かせていく感覚が興奮を呼び起こす。
あぁ、また見つけてしまったよ。
これでいくつめかな?
今日からよろしく。愛する食器さん。
【 すれ違い 】
取引先の担当が代わったりすれば、
ランチを共にしたり、時には飲みに行くこともある。
袖振り合うも他生の縁。
少しでも人脈を広げたり、維持したり。
きっかけはどうあれ、ご縁を大事にしようと思うのだが、
相手も同じとは限らない。
ランチくらいのんびりさせてほしいよなぁ。
最近、昭和の思考がお気に召さないお相手もいて、
聞こえてしまった一言に深く考えさせられたものだ。
パワハラのワードに恐れをなして、
後輩たちを誘うことはほとんどないが、取引先も難しい。
今夜の飲み会の予約は、キャンセルしておこうと思う。
【 秋晴れ 】
猛暑日なんて聞いたこともない時代、
10月でも半袖で遊んでいたのが懐かしい。
夏場の入道雲は、くっきりした白。
空とのコントラストがよく映えた。
朝夕の涼しさに季節を感じる今、モコモコ雲はもう無い。
あるのは小さく、薄いものばかり。
その分、青さが際だって、清々しさを感じる。
やっぱり、この季節が好きだな。
服装に頭を悩まされるのは困るが、すべてが丁度良い。
お出かけ気分もアガるもの。
うん、好きだ。
【 忘れたくても忘れられない 】
程度の違いはあれど、誰しも一度は経験する。
衝撃的な出来事。
あの人は、初めて親に叩かれて。
その人は、前人未踏の記録を出して。
今日までに色んな事が積み重なって、思い出になる。
なのに、迫る病魔は全てを消し去ろうと躍起になった。
脳内メモリのバグが、光速級に広がっていく。
そうして最後に残るのは、
笑顔溢れた、懐かしいあの頃の記憶。
一番輝いた、自慢のあの頃。