『お気に入り』
鍵の掛かった部屋
ずらりと並んだコレクション
大切に 大切に
誰にも見せない私の宝物
でも 今一番のお気に入りは
目の前のアナタ
私好みの 長いまつ毛に大きな目
鼻筋が通っていて
きめ細かい綺麗な肌
まさに私のコレクションにピッタリ
大丈夫よ 安心して
私の特別な部屋で
いつまでも一緒に暮らすの
お友達もたくさんいるわ
私のコレクションの仲間入りができるのよ
嬉しいでしょ 幸せでしょ
私も幸せ
だってこれからはずっと一緒
若くて美しいまま
永遠の時間を過ごすのよ
ホルマリン漬け
剥製
ミイラ
冷凍保存
アナタが望むなら
どれでもいいわよ
それとも
別の方法がお望みかしら?
いずれにしても
アナタは もう
私を裏切らない
私から離れられない…
『誰よりも』
誰よりも 誰よりも 君を愛す
なんて 昔々流行った歌を思い出した
そんなこと言われたことないけど…
現世で生きてる間に
言われる日は来るのだろうか?
誰よりも あなただけに愛されたい
とか あなただけを愛したいと思える
誰かに出会いたい
な~んて 私ってば
年甲斐もなく恋する乙女みたいだわ
とか 自分で言って 恥ずかしい
だけど…
例え両想いじゃなかったとしても
年齢に関係なく
おばあちゃんになったとしても
ずっと
恋する気持ちは忘れたくないのです
『10年後の私から届いた手紙』
切手のない手紙が届いた
封を開けると
何やら懐かしい香りがした
ただ それだけだった
他には何も入ってなかった
でも それでよかった
なんだか そんな気がする
10年間 どんな風に生きてきたとか
何に気をつけて生きろとか
生きているか死んでいるかとか
そんなこと知らなくていい
これから先の人生を
作っていくのは 今の私
一歩づつでも
今の私が進みたい方向に進んでいく
大丈夫だよ
10年後の私に頑張って生きてきたって
言えるように生きていく
だから待っててね
『バレンタイン』
甘くて苦いチョコレート
あなたのためだけに
手作りしたの
とっておきの毒入りチョコよ
可愛くラッピングして
リボンを付けて
準備は万端
あなたの好物ばかりの
ディナーも用意して
後は あなたが来るのを待つだけ
約束の時間
忘れずに来てくれたのね
玄関先で モジモジしたまま
あなたは中に入って来ない
「どうしたの?」
私が聞くと
「はっ ハッピーバレンタイン」
真っ赤な顔して
隠していた花束を
私の前に差し出した
「海外では バレンタインの日には 男の方から好きな女性にプレゼントするって聞いて 後輩に頼んで選ぶの手伝ってもらったんだ」
それじゃあ…あの時一緒にいた女性って…
「ありがとう とっても嬉しい 早く入って 料理が冷めちゃう」
私は できるだけ明るく言った
二人で料理を食べた後
「もうひとつ渡したいものがあるんだ」
彼はそう言って取り出したのは…
「僕と結婚してくれませんか?」
いつだったか
私が欲しいと言っていた
ティファニーの指輪
覚えていてくれたんだ…
「もちろん 喜んで」
私は笑顔で指輪を受け取った
「実は 私も渡したいものがあるの ちょっと待ってて」
そう言ってキッチンに向かう
私が手に取って あなたに渡したのは…
甘い甘いガトーショコラ
毒入りチョコは…
切り札として隠して置くわ
だから
油断しないように
くれぐれもご用心
『待ってて』
「そこで待っててって言ったのに、どうして先に逝っちゃったの?」
「ごめんね。でも、キミを連れては逝けないよ。だってキミはまだ若いもの。」
あなたは複雑な表情で私を見た
「そんなことどうでもいいよ。だって私はずっと一緒に居たいんだもん。」
私は少しふてくされて見せたが
彼は寂しそうに笑った
「ずっとそばに居るよ。だから、諦めないで夢を叶えて。」
何かを覚悟したような
その目は 私を真っ直ぐに見つめる
「わかった。」
私も覚悟を決めて言った
二人の時間が終わりを迎えようとしていることに気付いたから
「だから、今度こそ待ってて。必ず夢を叶えて逝くから。それまで待ってて。約束だよ」
泣きそうになるのをこらえて、私は一気にそう言った
「わかったよ。約束。」
彼は今度は優しく笑った
「ここで待ってる。ずっと待ってるから、急がず、ゆっくりおいで。」
そう言って彼はゆっくり消えて逝った…
桜の花が咲く頃になると
私は あの日の彼との約束を思い出す
まだ 夢の途中
「まだ当分かかりそう。でも頑張る。だから、もう少し待っててね。」