『街へ』
僕は街に行くのが少し苦手だ
限界集落ともいえるような
山間の静かな田舎に住んでいるせいか
普段から人との接触が少ないこともあって
人混みの中に行くと人酔いしてしまって
気分が悪くなる
人波も上手く歩けない
すぐに疲れて帰りたくなる
結局 目的も果たせず
何しに行ったかわからない
そんなことがよくある
何もない不便な田舎で
たまに自転車でふらふらと
一人でスーパーに行くくらいが丁度いい
こんなだから出会いなんてあるはずない
わかっているが
若い頃のような街への憧れのようなものは
薄れてきているようだ
年齢に関係なく活動的な人もいるが
そこまでの行動力もなくなってきた
とはいえ
このままここで朽ち果てるのも
なんだかなぁ~とも思う
キラキラした夢や希望を胸に
街へと旅立つことに憧れを抱いてた
あの頃にもう一度戻れたら
アイツとの約束も果たせたのかな?
「今からでもまだ間に合うぞ。人生はこっからでも挽回できる」
今ここにアイツがいたら
笑ってそう言うかもしれない
ってか 本当はそう言って
背中を押して欲しいのか?
歳を重ねても
相変わらず僕は迷ってばかりだ
『優しさ』
コーヒーが冷めないうちに
優しい嘘をついて
ずっと今が続けばいいと思ってた
不可能だと気づきながら
あなたがくれる優しさに
偽りはないと信じたかった
あなたの帰り待ってる
誰かの元で
私に見せない笑顔を見せる
偽りの満たされない愛
私に残して いつか去って行く
そんな不安と背中合わせ
めぐりあうのが遅すぎた
待つ身の女なんて もう卒業
終わりを告げるのに
臆病なあなたの代わりに
私から最後の審判を
「さようなら」
私からの最後の
愛の言葉を受け取って…
『ミッドナイト』
真っ暗な部屋の窓を開け
夜間飛行
愛する人を想う気持ちが生み出した
不器用な嘘がばれないうちに
あの人の記憶から
私を消しに
魔法の効果があったなら
明日の朝
あの人は迷わず彼女の元へ
私を忘れて
ハッピーエンド
『安心と不安』
夜と非日常の番人
ようやく出番
久方ぶりのパーティーの始まりだ
「出会った人々を変えてしまう」くらいの
魔法の力を持つ「非日常」
人に守られていかなければ
すぐに息絶えてしまうくらいに弱い者
安心と不安の空中ブランコを
行ったり来たりの繰り返し
仮面をつけた貴婦人たちは
噂話に花咲かせ
舞台の上
踊り子たちは歌い踊る
宴は続く夜の闇
星が瞬きカーニバル
鳥や虫たち大合唱
連れて花たち踊りだす
夜明けを知らせるフクロウの声
そろそろ宴もおひらきだ
非日常とはおさらばだ
客人たちは日常へ
夜と非日常の番人は
月に腰掛け帰ってく
『逆光』
ありのままの自分で生きるなんて無理
すべてが思惑通りに進展する訳ない
努力しても報われない
悪魔のように
顔の見えないアイツが
耳元でささやく
逆光の中で深紅の唇が不適に笑い
暗闇へと私を追い詰める
人生は短く儚い
夢や希望にすがるなんてやめにして
そろそろ人生の引き際ってやつを…
顔の見えないアイツの
深紅の唇だけが鮮やかに
命のタイムリミットを知らせる
逆光の中 最後に見えたのは
大きな鎌を私に向けて振り下ろす
アイツの姿と高らかな笑い声…