平日の終電。この車両には二人しかいない。そうそういないもんね。周りに人がいないのをいいことに、私は隣に座っている彼の肩に寄りかかった。
「…え?」
『気にしないで。』
「そう言われて気にしない人はいると思いますか?」
車窓から見える景色は、建物の明かりと電灯や信号などで照らされていてまるでイルミネーションみたいだった。目の焦点を窓に合わせると、車窓に私と彼が映っているのが見えた。彼は恥ずかしそうに私を見ている。それがなんか可愛くて、つい笑ってしまった。
「ん〜、何…?」
『いや、照れてるなぁと思って。』
「照れてないですけど。」
『窓越しに見えてるんだよなぁこれが。』
「もう…からかうのやめて…」
彼は照れ隠しに私の頬をつまんだ。
『ん!なにすんのっー。』
「せっかく人が肩貸してやってるんだから大人しくしてたらどうですか〜?」
『なんでよ〜;;』
「電車の中だし。」
『この車両誰も居ないのに?』
「…いつからそんな大胆になったんだか。」
彼は諦めたのか、そのまま手を離した。それと同時に私の頭に重みが来た。
『え、あ、』
「お前が先にやったんだからな?」
私の頭の上には彼の頭が乗っかっている。お互いに寄りかかっている状態だ。車窓に映る自分たちを見て、少しばかり恥ずかしくなった。
「…ふっ、照れてる。」
『だっていつもはそんな事しないじゃん。』
「この車両には、誰も居ないから。ね?」
ニヤニヤしながら車窓越しに目が合う。こういう所が策士で本当にずるい。
『…あと何駅?』
「ん〜?3駅。」
『そっか。』
あと3駅で着いちゃうのか、と急に寂しくなった。別に彼とは同棲してる訳じゃないし、近くに住んでる訳でもない。だからより一層離れるの辛くて。その寂しさを紛らわせるように彼の手を握りしめた。
「…なあ。」
『ん?
「駅着いたら、プレゼントあげるよ。」
『…それ先言ってよかったの?』
「いかにも寂しいですって顔してたからこれ言ったら少しは元気出るかな〜って。」
『…そういう所だよ本当に。』
私はそう言って真っ赤な顔がバレないように肩に顔を隠す。
駅に着いて、彼の家の合鍵をプレゼントされたのはまた別のお話。
朝夢目を覚ますと、なんとも言えない気持ちにさせられる。
それはなんと言っても公園で遊んでいた私と彼のせいで。
『ねえ見て!!先に登った方の勝ち!!』
「えっ!ちょっと!?反則だよ~!」
と言いながら追いかけて登っていく私。もちろん彼の不意打ちのせいで買ったのは彼で。
『へへーん!僕の勝ちぃ』
「かってに行くのがずるい…」
と幼稚園生なりの愚痴をこぼしていると、
『僕が買ったんだから僕と結婚するんだよ!!』
「え!一緒に結婚するの?」
『うん!』
いつも私は彼に勝てないみたいだ。