声が聞こえる
自販機の前で迷うきみ
複数ある飲み物の前で
行ったり来たりを繰り返す
いつも迷っているけれど
買っているのはだいたい同じ
自販機で買うだけなのにやたらと時間をかけて
結局はいつも同じものを買う
きみの友だちはそんなふうに言っていた
あちらこちらに動くきみの目線
のんびりと待っているぼく
後ろに人の気配を感じて場所を譲るきみ
ただそれだけなのに楽しくなっているぼく
飲み物を手にやってきたきみ
普段は買わない炭酸飲料ときみ
冒険してみた
そう言うきみは楽しそうな笑顔
すきだけど炭酸の刺激が強くて
はやく飲めないと言っていたきみ
きみが飲みきるまでの
普段より少し長めの時間
それでも
きみと話していると
時間がたつのが早いから不思議なんだ
空が泣く
湿気を含んだ空気
午前中は曇っていた空も
予想どおり雨
出かける前に見た天気予報
折りたたみの傘の話をしていた
知ってはいたけれど
傘を持って出なかったのはぼく
雨が降る
だからなんだ
雨が降る
それがなんだ
午前中のぼくの選択が
現在のぼくに示した結果
雨やどり
行動を先延ばしにする時間の浪費
小雨のタイミングで走る
傘を買う
選択肢はいろいろあるけれど
そのままなにもしないぼく
現状維持を選ぶぼく
久しぶりだね
ぼんやりしていたぼくに
控えめだけど楽しげな声
接点がなくなったと思ったきみ
変わらない様子のきみ
おどけた様子で傘がないと言うと
天気予報は見なかったのと笑うきみ
わずらわしいと思っていたはずの雨
楽しいともうれしいとも
思っていなかった無駄な時間
きみと話していると
心地よく感じるのはなぜなんだろう
君からのLINE
きみを見かけなくなったぼく
きみの声が聞こえなくなったぼく
でもきみは消えてしまったわけじゃない
いつもどおり見かけるきみの友だち
聞こえてくるのはきみの友だちの声
変わってしまったのは
なぜなんだろう
ぼくときみと知り合いのグループLINE
必要最小限の業務連絡ツール
わかっているのに
何度も確認したくなる
きみがいてもいなくても
ぼくの日常は変わらない
なにも考えず眠り込んでしまいたい
そう思うのに
通知がくると期待してしまうのは
なぜなんだろう
喪失感
昨日と同じ景色
半年前と同じ顔ぶれ
1年前と同じ日常
可もなく不可もなく
流れていく時間
誰もが不都合なく
すごす毎日
近くできみの友だちの声が聞こえる
他愛ない家族の話
続けている趣味の内容
共感を待つ日常の愚痴
あたりさわりなく
妥当なことばを返す
なにも変わらないはずなのに
むなしいと感じてしまうのは
なぜなんだろう
今日もいない
昨日もいない
明日もいない?
きみはどうしていないのだろう
きみの友だちはここにいるのに
理由がわからないぼく
理由を聞けないぼく
きみがいないと
満たされないのはいつからだろう
踊るように
ゆっくり歩いたかと思ったら
急にリズムも方向も変えるきみ
表情がクルクル変化するのに
楽しげなのはずっと同じ
普段はのんびりしてるのに
今なら突然だれかが立ち止まっても
ぶつかることなくかわせそうだね
うそが苦手なきみ
水族館がすきだと言っていた
ここまで夢中になるほどだったんだね
子供のように目を輝かせているきみ
少し離れたところから見ているぼく
水族館ひさしぶりだよ
ぼくの知り合いの声
どうやら一緒にきた数人が
近くに集まりだしたようだ
水族館は癒しだよね
そんな会話が聞こえてくる
キラキラ光る水槽ときみ
きみがいると
すきなものが増えていくような気がする