ゆかぽんたす

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3/7/2024, 3:20:19 AM

あの子がそっとこの部屋から出ていったのに気づいたのは僕だけだった。みんなは盛大に騒いで、笑って、とにかくやかましいくらいに部屋中に声が飛び交っていた。だからあの子が席を外す瞬間を見たのは僕だけ。目に涙をためて、堪えきれずに逃げるように出て行ったのを見たのはこの僕だけだ。

今日僕らは卒業した。日中に卒業式があり、夜になってまた集まれるやつは集まろうという話になった。いわゆる2次会みたいな感じのパーティ。学校のそばのカラオケ店に集合して、1番広い“パーティルーム”を貸切にして僕ら卒業生は好き勝手騒いでいた。昼間はみんなあんなに泣きまくっていたのに、今となっては誰もそんな素振りは見せない。アルコールが入ってるわけでもないのに(確証は無い)、馬鹿騒ぎは何時間も続いた。
でも、誰かが入れた“3月9日”のイントロが流れた時、あの子がそっと部屋から出ていくのを見つけた。目にはきらりと光るものがあった。すぐに追い掛けるのはなんだか気まずいから、仕方なく誰かのヘタクソなレミオロメンを聞いてから隣りに座っていた友達には「トイレ」と言って部屋を出た。廊下を曲がってドリンクバーコーナーを過ぎて突き当りの広間みたいなところに彼女はいた。こっちに背を向けて座っているから今どんな顔しているのか分からない。けど間違いなく泣いている。
「歌わないの?」
僕の声にびっくりした彼女は勢いよく振り向いた。やっぱり真っ赤な目をしていた。
「卒業が、かなしいの?」
「……うん」
泣き顔を隠すように彼女は横を向いた。嫌がるだろうとは思ったけど僕は構わず隣に座る。微妙な空気が流れた。そっぽを向く彼女の背中から尖ったオーラがびしびし伝わってくる。もう放っといてよ。そう言いたいんだろう。分かるけど、僕はその通りにはしないんだ。ずっと気になってた子が泣いてるのに放置してカラオケするほど僕は無神経じゃない。とは言っても、どうやって慰めたら良いんだろうか。彼女にとって気の利いた言葉がどれなのかは分からなかった。だからありきたりなことしか口から出てこなかった。
「またすぐ会えるよ」
「どうだろ」
「どういう意味?」
「私だけ、進路がちょっと違うから。来週には日本を発つの」
「え」
絶句した。数秒前の、僕のまたすぐ会えるよ発言はいともたやすく消されてしまった。そうか。だから彼女は誰よりも卒業することを嘆いていたんだな。そんなことも今さらになって知る。僕は馬鹿だな。好きならばもっと、彼女のことを知るべきだった。本当に馬鹿だな。
「でも、」
と彼女が口を開いて、そして僕のほうを見た。頬に涙の跡が残っているけど、顔は笑っていた。
「そうやって言ってもらえて元気出たよ。ありがとう」
無理して笑ってる。それでも、彼女が僕が追い掛けてきたことを受け入れてくれたのが分かって嬉しかった。“また会える”だなんて、本当は容易く言われたくなかったのかもしれないけど。彼女は嫌味を言わずに僕にありがとうと言ってくれた。そのことが、僕の心を突き動かした。
「決めた」
「え?」
「夏に海外旅行する。その為にこれからバイト頑張る」
「え?あ、そうなんだ」
「行き先は君が行く国にする」
真ん丸に見開かれた両目に、やたら真剣顔の僕が映っている。僕だって出来ることはやるさ。すぐ会えるだなんて言ったからには実行させてやる。だから待ってて。そして、次に会う時には僕の気持ちを聞いてほしい。今はまだ言えないけど。卒業しても、何万キロ離れてても、見えないものが繋がっているから。
彼女が頷きふわりと笑った。瞳の中の僕も同じように笑っていた。

3/5/2024, 12:47:04 PM

おかえりー。
コート脱いでおいで。ご飯食べよ。
え?そうだよ?たまには僕だってお家のことやりますよ。……って言っても少し作っただけで、料理の半分はウーバーさんに頼りました。
いいのいいの。君の仕事を減らすことが目的だから。たまにはゆっくり話そうよ。ご飯食べてさ、お風呂入ったら一緒に映画見ない?ほら、こないだ見たいねって話てたやつ。たまには映画鑑賞するのもいいかなーって。ツマミとワインも買っといたよ。君が好きな銘柄。なかなか見つからなくてふた駅隣の店まで行っちゃったよ。ま、たまにはこんなのもいいかなって。

なんだか、“たまには”なことが意外とあるもんだね。いつもの日常が当たり前のように思えてしまってるのかもしれない。幸せに慣れすぎるってあんまり良くないと思うんだよね、僕は。有り難みをついつい忘れかけてしまうから。でも、だからって幸せが減るのは嫌だよ。むしろ君との時間は今以上に増やしたい。君の笑顔は今はもう見慣れてしまっているけど、君が笑うたびに幸せ感じてるのは今も同じだよ。いつもありがとう。たまには、感謝の気持ちを言葉にして伝えないとね。
え?それはたまにじゃなくて毎日でいい?……それはどうしようかなあ。だって、毎日ありがとうと愛してるを言うのはいくら僕でも恥ずかしいよ。
愛の言葉は、“たまには”でいいじゃない?そのほうが新鮮さを保てるよ?

3/5/2024, 9:36:52 AM

たまに心を閉ざすことがあります。
結構な頻度で落ち込んだりします。
目も当てられないほど泣きわめく時だってあります。
本当は抱きしめてほしいのに、まるで逆の態度をとることも少なくないでしょう。
時々お洒落なレストランに連れてくと機嫌は鰻上りになります。
気が進まなくても“どっか行く?”と言うと、もの凄く喜びます。
洋服選びは長いですが根気よく待ちましょう。決して“まだ?”と言ってはいけません。不貞腐れて何も買わないというオチになるでしょう。
コツは“褒めて伸ばす”ことです。些細なことでも気づいてもらえたら、顔は冷静を気取っていても内心は飛びつきたくなるくらい嬉しがっています。
すると時々“お返し”が返ってくることがあるでしょう。手料理だったり、ただのハグだったり、柄にもなく“好き”だと言ってくることもあるでしょう。

だから、苛つくこともあるだろうけど広い心で受け止めてね。どれもこれも、大好きなあなたのためにとる行動なんです。

3/4/2024, 7:08:00 AM

ひなあられ
いちご大福
甘酒
ひし餅
すあま
ちらし寿司
桜もち
手まり寿司
赤飯
いなり寿司
菜の花
ハマグリ
三色だんご

ひなまつりっておいしいな

3/3/2024, 7:45:06 AM

「逃げろ」
そう言って、兄さんは僕だけを逃がすと自分はあの業火の中に消えていった。まさか、あれが最期の言葉になるだなんて。

僕には特別な力がある。それを手に入れるために悪い大人たちが僕の命を狙っているんだって。そんな話を聞かされたのはいつだったか。初めは半信半疑だった。だって、人と違うところがあるなんて全く思い浮かばなかったから。ただ、小さい頃からちょっとだけ先の未来のことが暗示できたり、明日起こることが見えたりするくらいだった。それが特別な力だと自覚するのは歳が2桁になった頃だった。周りの人は、僕を恐れるタイプと羨ましがるタイプの2つに分かれた。この力のせいで離れてゆく友達もいた。逆に興味を示して近付いてくる人間もいた。僕のせいで僕の家族と他人が言い争うところも目撃した。僕は悲しかった。こんな力があるせいで周りの人に迷惑がかかってしまう。心が痛かった。あの頃から泣けない子供になっていた。

でも、そんな僕に兄さんはいつも言ってくれた。
「お前は俺たちの希望なんだよ」
あの頃は、どういう意味なのか全く分からなかった。でも成長した今なら何となく分かる気がする。僕のこの力で国を救えるかもしれない。未来予知をすることで助けられる命があるかもしれない。そう思えるようになったから僕も兄さんと同じ軍隊に入団した。そして初めての出動要請をうけて駆けつけた場所で。僕らは見事に敵陣の策にはまってしまった。我を忘れて逃げ惑う仲間が沢山いた。そっちに逃げたらいけない。未来が分かる僕は大声で叫んだけれど、その声も虚しく何人もの仲間たちが戦火に焼かれていった。もう駄目だ。この戦は大敗だ。僕も同じような道をたどるのは時間の問題だと思った。
だがその時。
「お前だけでも生き延びろ」
強い力で背を押された。押したのは、紛れもない兄だった。
「お前は俺たちの、たった1つの希望だ」
また、あの時と同じようなことを言って兄は僕から踵を返した。もう2度と振り返ることはなかった。僕は追い掛けたかった。けれど火の海に行く手を阻まれてしまいできなかった。兄さん、兄さんと声が枯れるまで呼び続けた。それでも兄は、2度と僕の前に姿を現すことはなかった。
僕のせいで兄さんは命を落としたんだ。そう思うしかなかった。ひとしきり泣いた後でもいくらでも自分を責めることができた。でも、兄のあの言葉が耳からこびりついて離れなかった。
「お前はたった1つの希望だ」
僕は、希望。
僕は立ち上がった。泥と涙で汚れた頬を拭って焦げ臭い平野を歩き出す。まだやれることがあるんじゃないか。そう思えたら途端に足が勝手に動き出していた。見えた未来は今から数時間後。またここに火の玉が飛んでくる惨状だった。止めなければ。僕は希望なんだ。何としても未来を変えてやる。僕ならできる。見ててくれ、兄さん。僕は今から希望になる。

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