■ 欲望
あなたは「 」が
聞こえているか?
あなたは今
深い海の底にいて
上にあがろうにも
浮力が無いから
遠く光る水面まで
たどり着けない
ゆっくり
身体に満たしていこう
満たさないままに
水面を追い求めると
身体と心が張り裂けてしまうから
それでもあなたは乞い願う
遠く先の水面を
身体を「 」で満たさないまま
自分の「 」は後回しにして
「 」は
野生のように
本能を呼び起こすように
縮んで震えてしまった
あなたを研ぎ澄ます
あなたの「 」は
こんなにも叫んでいる
荒々しく
みっともなく
産まれたての赤ん坊のように
私はそれを聞く
私の「 」の慟哭と共に
■ 遠くの街へ
多くの人は
生まれた場所以外で
幸せになれないと
どこかで聞いた
けれど “今” あなたが
生まれた場所で
幸せを感じていないのなら
そこから離れてもいい
ずっと遠くへ
誰もあなたを知らない
遠く
遠く
遠くの街へ
だってあなたは
多くの人の内の一人ではなく
多くの人はあなたの事ではないから
■ 現実逃避
しっかり寝る
しっかり食べる
しっかり働く
しっかりセックスする
しっかり遊ぶ
しっかり現実逃避する
そんな しっかりした生き方
■ 太陽のような
私達は乾いていた
その日は今年一番の猛暑日を記録していた
いつもは人で溢れ返っているエリアも
今日ばかりは疎らで
その歩いている人でさえ
まるでいつか見たゾンビ映画のような歩き方をしている
おかしいな、いくらなんでも少なすぎる…
そう思い 目を凝らすと
影の下に人々がいた
歩くことが馬鹿らしいのやら
一旦汗を拭うためやら
信号機の色を確認するやら
日傘を準備するやらで
皆建物の庇や木陰で佇んでいた
私だって本当は涼みたいが如何せん仕事中
そういうわけにはいかない
額から伝う汗を拭いながら一つ一つ点検する
今日中に終わらなければ
また明日も“うだる”ような暑さの中で
この熱々の機械と向き合わなければいけないのだ
汗だくで機械と格闘しているとふと視界の端に何か映った
その方へ顔を向けると高層ビルの中から小さな子が
こちらに向かって手を振っている
驚きながらも笑い 小さく振り返す
あのビルからはこっちが見えるんだなと
子供を尻目に作業へ戻る
あぁ 人類はいつからこんなに熱に弱くなってしまったのか
それは約500年程前にこのコロニーの軌道が変わり
日照時間が減り人々がこの完璧に管理された空調システムに
慣れきってしまったためだろう
今年は数百年ぶりに太陽へ接近したため
システムの熱放出が追いついておらず
あちらこちらで機能がダウンしている
故障の原因は人工熱ではない自然の熱で
コロニー内に湿度が充満したためだ
暑い… だか私達は数百年ぶりに潤い
疲弊している だが同時に身体が喜んでいる
これが太陽か…
そう思いながら作業していると
プシューっと点検箇所から蒸気が飛び出した
「ごめんごめん 気を悪くしないでくれ、太陽でも君には敵わないよ」
私は500年間ずっと太陽のかわりに照らし
私達を守り続けてくれている人工光源に話しかける
「私達には君が必要不可欠なんだよ」
そう言いながら太陽のような彼女を優しく整備する
今 私達は潤っている
それは太陽の熱による湿気ではなく
この人工光源と歩んできた歴史と人の営みによるものだ
■ 0からの
“0”とは何だろうか
ただの数字だろうか
それとも失う事だろうか
それとも何もない事だろうか
それとも終わりの事だろうか
ただの数字は
数学者が発見した “0” という概念で
失う事は
何かが有ったという事で
何もない事は
“何もない”という事が有るという事で
終わりの事は
何かを始めていた過去が有るという事で
ならば “0” とは
“1” の後にできて
過去に何かが有って
今は何もないが有って
始めたことが終わった という事で
つまり “0からの” は その先があるという事
何かからの “0からの” 何かであるならば
“0” は “無” ではなく “無限” であって
“1からの” が本当の “無” なのかもしれない
“0からの”って 何て素敵な始まりなんだろう
そんな事を考えながら今日は眠る