かぷ

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■ 太陽のような



私達は乾いていた


その日は今年一番の猛暑日を記録していた
いつもは人で溢れ返っているエリアも
今日ばかりは疎らで
その歩いている人でさえ
まるでいつか見たゾンビ映画のような歩き方をしている

おかしいな、いくらなんでも少なすぎる…

そう思い 目を凝らすと
影の下に人々がいた

歩くことが馬鹿らしいのやら
一旦汗を拭うためやら
信号機の色を確認するやら
日傘を準備するやらで
皆建物の庇や木陰で佇んでいた

私だって本当は涼みたいが如何せん仕事中
そういうわけにはいかない
額から伝う汗を拭いながら一つ一つ点検する
今日中に終わらなければ
また明日も“うだる”ような暑さの中で
この熱々の機械と向き合わなければいけないのだ

汗だくで機械と格闘しているとふと視界の端に何か映った
その方へ顔を向けると高層ビルの中から小さな子が
こちらに向かって手を振っている
驚きながらも笑い 小さく振り返す
あのビルからはこっちが見えるんだなと
子供を尻目に作業へ戻る

あぁ 人類はいつからこんなに熱に弱くなってしまったのか

それは約500年程前にこのコロニーの軌道が変わり
日照時間が減り人々がこの完璧に管理された空調システムに
慣れきってしまったためだろう
今年は数百年ぶりに太陽へ接近したため
システムの熱放出が追いついておらず
あちらこちらで機能がダウンしている

故障の原因は人工熱ではない自然の熱で
コロニー内に湿度が充満したためだ

暑い… だか私達は数百年ぶりに潤い
疲弊している だが同時に身体が喜んでいる
これが太陽か…

そう思いながら作業していると
プシューっと点検箇所から蒸気が飛び出した

「ごめんごめん 気を悪くしないでくれ、太陽でも君には敵わないよ」

私は500年間ずっと太陽のかわりに照らし
私達を守り続けてくれている人工光源に話しかける

「私達には君が必要不可欠なんだよ」

そう言いながら太陽のような彼女を優しく整備する


今 私達は潤っている
それは太陽の熱による湿気ではなく
この人工光源と歩んできた歴史と人の営みによるものだ

2/22/2023, 4:33:59 PM