9/13/2021, 2:10:03 PM
なんとなく、一度は富士山に登らなくてはいけないという漠然とした想いがあった。生まれは神奈川だが、晴れた日には丹沢山地の向こう側にその姿を眺めていた。通学路から遥か向こうに見える霊峰は現実感がなく、ただそこにずっとあるものであった。
特に特徴的でない学生生活を終え、いよいよ社会に出るとなったところでやるべきことをみつけられなかった私は、他の多くの人がそうであったように一般的なサラリーマンに落ち着いた。勤め先が決まった学生最後の夏、登ろう、という気になった。「ついに」でもなく、「急に」でもなく、ただその時期が来たというような気がした。
登山用品は事前にレンタルした。当日は5合目までバスで向かい、8合目の山小屋で一泊、夜に出発し朝日が登るタイミングで登頂した。登る時間に余裕をみすぎたため、山頂で1時間ほど凍えて過ごした。
待ち時間はずっと空をみていた。紫黒だった空が徐々に紺のグラデーションを広げていく様をみて、多くのはじまりと、そこに何もいらないことについて考えてた。
やがて陽があがると、その刺すような暖かさになにか救われたような気がした。