俺の日課は鳩の餌やりだ。だから毎日昼休憩に公園で鳩にコンビニのパンをちぎってやってやる。そんな変わらない日々を送っていた。しかし今日はいつもと違った。鳩の群れの中に一匹小さい子供の雀が混じっていた。そいつはゴミが絡まって上手く飛べないようでパンがなくなっても俺の足元にずっといた。
「お前、親はいないのか?」
そう問いかけたが動物なので返事をするはずもなく、俺は虚しくなった。恐らく育児放棄されたのだろう。雀は警戒心が強く一度他の種族の匂いが着いたら見捨てられる。少し可哀想で少し同情した。俺も母親が5才のときに飛んで父親はそれを忘れようとずっと仕事に明け暮れていた。
「お前も可哀想に。じゃあな。」
世話をしてやりたい。そう思ったがこれから仕事が始まる。もう行かなくては。俺はベンチを立ち公園を出る。少し雀の様子が気になって後ろを振り返ったら俺の足元に雀がいた。…ついてきたのか?俺はなにもしてやれないのに付いてくるそいつに胸が痛くなる。だが俺には仕事がある。胸が痛いのを我慢して仕事場まで早歩きで向かった。
やっと仕事が終わった。もう8時だ。あいつはどうしてるだろうか。あの公園に戻ったのか?それもとカラスにでも……それは考えなかったことにしよう。
「チュン!」
会社の玄関を出るとそいつはいた。くそ。なんでいるんだよ。世話してやらないといけなくなるだろ。俺は誰にもバレないように何か落としたフリをして雀を拾い胸ポケットに押し込んだ。
「いいか?家に帰るまで大人しくしてろよ。」
俺は雀にそう耳打ちし、コンビニでカップラーメンとこいつ用にパンを買って帰った。胸ポケットから雀を出し机に置いた。よく見るとプラスチックの紐が体に食い込んで少し血が滲んでいる。一体どのくらいの時間絡まっていたのだろうか。
「今取ってやるからな。」
ハサミを取り出し体を一緒に切ってしまわないように慎重にとってやった。そいつは嬉しそうに跳び跳ねた。パンを与えてあげねば。昼も何倍も体が大きい鳩にパンを取られてたもんな。腹がすいているだろう。そいつが食べやすいよう出来るだけ細かくして食わせてやった。1日一緒にいると愛着が沸いてくる。治るまで家に置いてやろう。
二週間経っただろうか。いつの間にか傷は治り、顔立ちもすっかり大人になった。そろそろ別れの時のようだ。俺の部屋はすっかりこいつのための水呑み場や水浴び場で溢れておりもうどっちの部屋かわからなくなっている。寂しいもんだな。俺は雀のチュン太を掴みベランダへ放した。もう1人でやっていけるだろう。すぐ飛んで行くと思ったがチュン太はベランダの柵を往復しているだけ。早く飛んでくれないとまた家にいれてしまいそうになる。窓を叩いて驚かせて飛ばせてやろう。
バンッ!バンッ!
あいつは一瞬こっちを向き飛んでいった。今日は酒を飲もう。あいつが家に来てから飲もうとするから酒を開けられなかった。冷蔵庫からビールを取り出し流し込む。
「プハァー………」
明日は休日だから思う存分飲んでやる。
頭が痛い。気づいたら朝になっていた。
いつもならチュン太がチュンチュンと鳴き起こしてくれるのに。
「チュンチュン!」
俺はベランダの方を見た。電柱に一匹雀が鳴いていた。