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7/19/2023, 1:55:43 PM

視線の先には、貴方がいた。

私は、貴方と目を合わせるのが気恥ずかしくて、視線を彷徨わせて、貴方の後ろに焦点を合わせる。
私は近眼で、遠くを見つめれば見つめるほど、ぼやけてしまう。
でも、貴方の後ろは真白の壁で、何も無いことは知っていた。
それでも私は、何もなくても見つめていた。今更、貴方に視線を戻すことが出来なかった。
貴方は、私が貴方の後ろを見つめていることには、気がついていたようだった。
しかし、私の意図までは気づかない。
私が、何も無い空間をじっ、と見つめていることに、不安になったのか、貴方も振り向いてしまった。

ああ、ああ、どうしよう。私は、何か理由を付けなくては、と目を泳がせる。

おろおろ考えているうちに、貴方は、私に顔を向けて、目を白黒させていた。
貴方の様子に目を細め、もう一度、真白の壁を凝視する。
何も無い、と思っていた壁には、大きな蜘蛛が這っていた。

私は、声を上げる。まさか、この叫び声が、理由が出来たことの安堵も混じっているとは、貴方は思わないだろう。

視線の先には、蜘蛛がいた。
それは、貴方と目を合わせることが苦手な、私にとっての救いの糸だった。