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11/13/2022, 8:58:31 AM

ースリルだらけの生活が送ってみたくはありませんか?
 そんな貴方にはスリルシュガーをどうぞ!
 此れを食べるだけで毎日がスリルだらけの遊園地!
 毎日に退屈している方、スリリングな生活を送りたい方にはオススメです!ー

興味本位であの菓子を買ったのがいけなかった。
突然画面に出てきたあの広告。
ー毎日に退屈している方、スリリングな生活を送りたい方…。
まさに自分の事じゃあないかと思った。
本気にしているわけでは無かったが、それでも面白そうだと惹き付けられた。
広告をクリックすると、可笑しなサイトに飛んだ。
ー本当に買われるんですね?
 yes no
気兼ねなくyes を押す。
あの頃はまだほんの冗談だと思っていたのだ。
yesを押すと、また警告が出てきた。
ー本当の本当に買われるんですね?
 当店では命の保証は致しません。
 yes no
随分と演出に凝ってるんだなと少し驚きながらも再度yes を押した。
本当は演出でも何でもないというのに。
yes を押すと此のような文が出てきた。
ーご忠告は致しましたよ?
此処で漸く少し違和感を覚えたが、
数秒後に出てきた販売サイトに気をとられ、違和感などすっぽり頭から抜け落ちて終った。
販売サイトはとてもカラフルで、綺麗だった。
カラフルな背景に釘付けに成ってしまっていたが、本来の目的を思い出す。
少し下にスクロールすると、お目当ての物が有った。
ースリルシュガー 千円
砂糖菓子にしては随分と高いとは思ったが、それで萎えるような好奇心では無かった。
購入ボタンをクリックする。
ーお買い上げ有難う御座いました。
そして、何故かそのサイトは閉じてしまった。
他の商品も見たいと思っていた私は、驚き、同じ広告を必死で探した。
だがしかし、もうあの広告は見つからなかった。
やはり、悪戯の一種だったのだろうと思い、そのままスリルシュガーの事はさっぱり忘れてしまっていた。
本当に只の悪戯であればどれ程良かっただろう。
しかし、数日後にスリルシュガーは届いて終ったので有った。
届けてくれた宅配の人は《魔法菓子専門店》と書かれた見慣れぬ青い帽子を深々と被っていた。
ーお買い上げ有難う御座います。
そう言い、商品を渡してきた。
私が商品を受け取った瞬間にその人は居なくなって終ったのだが、
商品に夢中に成ってしまっていた私はその事に気づかずそのままドアを閉めて終った。
ダンボールにはやはり、《ースリルシュガー 気を付けてお食べくださいー》と書かれている。
悪戯では無かったのだと驚きつつもダンボール箱を開ける。
中には、ダンボール箱より幾分か小さな熊の形をした菓子がちょこんと置いてあった。
可愛らしい熊だと思い、スマホで写真を撮ってロック画面にした。
そして、一口熊の尻尾を齧ってみる。
すると、齧った途端に甘い砂糖が口の中にじんわりと広がった。
思わず菓子を凝視してしまう。
とても美味しい。
千円なのも良く分かる。寧ろ、もっと高くても良いぐらいだ。
あまりの美味しさに、残りを一口で食べてしまった。
ごろんと横になり、口に残る甘さを吟味していると、あの広告が頭に浮かび上がってきた。
ー此れを食べるだけで毎日がスリルだらけの遊園地!…。
あの広告の通りだと、此れから先はスリリングな生活を送れる筈だが…。
まあ子供騙しだろうと思いつつも外に出てみた。
暫く歩いて見たが、何も起こらない。
やはり何もないのだと少し落胆しつつも家に帰っている道中に事は起こった。
ー危ない!
誰かの声が辺りに響いた。
後ろを振り返って見ると若いサラリーマンが走って来る。
サラリーマンは目を見開き、此方へ走ってきていた。
何かあったのだろうかとのほほんと考えていると、サラリーマンが上を指した。
上を見上げる。
そこから私が覚えていることは、視界一杯に広がる何か灰色の物と、サラリーマンの叫び声だけだった。

目を覚ますと、そこは病院であった。
私は、頭を包帯でぐるぐる巻きにされたままベッドに横たわっていた。
後で医者に何があったのか話を聞くと、どうやら工事現場のパイプが私の頭上に落ちて来たらしい。
パイプで頭を強打され、気絶した私を見て病院に通報してくれたのがあのサラリーマンだった。
医者曰く、〈奇跡〉なんだそうだ。
あの高さから落ちたパイプを頭に受けると普通は死んでしまうのですよ、と医者は驚いた顔で私を見ていた。
そうなんですね、と相槌を打ちつつも私には心当たりがあった。
スリルシュガー。
もし効果が有ったとしても、
自転車とぶつかりそうになるだとか警察に話しかけられるだとかそんなレベルだろうと思っていた。
だが実際の所はパイプを頭に受けて死にそうになる、だ。
こんなの御免だ。
早く家に帰って解除方法を見ようと思った。
説明書位あるはずだ。
そう思いつつ、いつ退院出来ますか、と聞いた。
ー二、三週間は安静にしておきましょう。
その言葉を聞いて、此れから病院で酷い事になるだろうと思った。

やっと退院出来た。
もう神経が磨り減っていた。
命の危機に一体何回直面したであろう。
ある時はこけて頭を打ちそうになリ、
又ある時は包丁が飛んで来て腹部に刺さりそうになり、
又ある時は窓ガラスが割れ目に破片が刺さりそうになり…。
もう懲り懲りだ。
帰り道、またパイプが落ちてこないか
きょろきょろと周りを注意深く見ながら一歩一歩慎重に前へ進む。
漸く家に着き、ドアを開け中に駆け込んだ。
リビングにあのダンボール箱がある。
中を勢い良く覗き込むとあの時は菓子に夢中で気付けなかったが、小さく折り畳まれた紙があった。
紙を引っ掴み急いで開く。
するとそこには《説明書》と書かれてあった。

《説明書》
スリルシュガーは可愛い小熊のお菓子です。
何処から食べるかによってスリルの大きさが変わります。
前足…1スリル。
例、上司に休日に突然出会ってしまう。
後ろ足…2スリル。
例、友人から貰った大切なモノをうっかり壊してしまいそうになる。
胴体…3スリル。
例、突然警察官に話しかけられる。
頭…4スリル。
例、お金をうっかり持ってき忘れる。

スリルに飽きて終った方へ
無効化材はスリルシュガーと同封されておりますパンダのお菓子です。
お客様が心からスリルに飽きたと感じられますとこの説明書の上に発現致します。
スリルシュガーと同じ部分からお食べください。
そうするともう貴方の身にスリルは起きなくなります。

そうなのか、と思った。
が、しかし、この説明書の上にはパンダの菓子は発現していない。
まさか、不具合が生じたのか…!
焦り、説明書をもう一度見ると、まだ続きが裏に有るのに気付いた。
《注意》と書かれている。
続きを急いで読んだ。

《注意》
決して、スリルシュガーを尻尾から食べてはなりません。
小熊が怒って、貴方の身に害を及ぼしてしまいます。
また、尻尾から食べた場合、無効化材も現れません。
お気をつけ下さい。

…自分の顔からすうっと血の気が引いて行くのが感じられた。
私は一体何処からあの菓子を食べた…?
ああ、そうだ。
尻尾だ。
そう思った瞬間、ガンっと大きな音がして私は意識を失った。

そして、今に至る。
私は、夜の病院の屋上に患者服で立っていた。
数日前、説明書を読み耽っていた私の後頭部に一体全体どうしてかは知らないがテレビが落ちて来たらしい。
そこから病院に搬送され、一命をとりとめたそうだが…。
もう沢山だ。
こんな目に合うのならいっそのこと死にたいと思い、夜にベッドから抜け出してきたのだ。
飛び降りてもう楽になってしまおう。
フェンスをよじ登り乗り越える。
ああ、あんなに低い地面が見える。
地面が、おいでおいでとにこやかに誘ってくれているように私の目には見えた。
漸く死ねるのだ。
「あは…あははははっ!」
そして私は身を投げ出した。

グシャ。
私の潰れた音が聞こえた。
ああ、死ねる、はずだったのに…
何故、周りの、悲鳴が、聞こえるのか…?
目をうっすらと開けると沢山の人の足とヒビの入ったスマホが見えた。
あのスマホは、本当はいけない事だけれども私が生きる希望を失っているように見えるからと、
看護師が渡してくれた私のスマホだ。
スマホはいつの間にか電源がついている。
そして、画面にあのスリルシュガーが写っていた。
此方を画面越しに見つめる小熊は、心なしか良い気味だと嘲笑っているように思えた。
それを見た瞬間に私は悟った。
ああ、もうどうやっても死ねないのだと。
絶望感に飲まれて、私は目を閉じた。















ーだからあれほど魔法菓子を無魔法種族に売り付けるなと申したんです!
ーまあ、そんなに怒るなよ…。とにもかくにも此れで七人目のデータが取れた。
 もうちっと説明書は目立つようにするべきだったな。
ーちょっと、まだ続ける気じゃないでしょうね。
ー後三人手伝ってくれたら賄賂を倍にしても良いんだぜ?
―…。
―ハハッ、黙っちまってよお。
 それにしても、レベル4の奴が今回の奴と遭遇したらあんなことになるんだな。
―…あのサラリーマンと医者のことですか?
―ああ、そうだ。
 サラリーマンも医者も目の前で人が死ぬところだった訳だしな。
―無効化材を飲むかも知れませんね。
―トラウマになるかもな。
―まあ、でも大勢の人の為には必要な犠牲なんじゃないですか。
ーあんた結構酷いこと言うんだな。
 まあ、取り敢えず改善作業に取り掛かるか…。



 そして、いつかは今回の犠牲者も救ってやらなくちゃな…。
 




11/8/2022, 9:34:37 AM

あなたはあなた
わたしはわたし
なのに、どうしてそんなにないているの?