無性に受け入れられなかった。
「じゃあ、私で良くない?」
気づいたら口に出してた。イライラとドキドキに押し出されるように。
マッチングアプリで知り合った?そんなどこの馬の骨かもわからないやつと?誰でも良いみたいに!じゃあさ!!
自分でもバカらしいと思う。
ただあの時ああ言った私を否定しないためだけに。
良いわけ無いのに。
だれが悪いとかじゃない。
強いて言えばタイミングが悪かった。
あとはまあ、察しが悪かった。
誰かが上手く噛み合えば、しわ寄せは誰かに行く。たまたま合わなかったのが自分だった、ただそれだけのこと。
久々に起動したスローライフゲームの空にうっすら虹がかかっていた。
昨日は雨だったんだね。
私が電源をいれてもいれなくても世界はずっとそこにある。
だからずっと生ぬるい
3秒停止した。そして頭に来た。ありえない。
お風呂上がり、ほてった体を冷やすために氷をたっぷり入れた水を飲みたかった。先に注いだ水道水のグラス越しに伝わる絶妙に水とは言いたく無い温度にいやでも夏を感じ、冷凍庫を開けて今、全てを台無しにされた気分で動けない。
氷がない。
目指していたオアシスにようやくたどり着いたと思ったら干からびてしまっていたかのような絶望。なにも大げさに言っているわけではない。
「なにしてんの、もったいな」
振り返ると、同居人が台所の入り口に立っていた。呆れたように見下ろされる、片手にはアイスコーヒー。グラスの中で、氷がゆっくりと回っていた。氷。怒りの張本人。冷凍庫を開けっ放しで停止している自分も客観的に見たら間違いであることは認めるが、氷を使い切っておいて補充せず自分は悠々と冷えた飲み物を堪能する無神経な奴はその顔をする資格があるはずがない。その液体の黒々しさにも無性に腹が立った。いったい何時だと思って。
「早く乾かさないと風邪ひくよ」
自らのせいで目の前の相手が怒りを積み上げているとは露ほどにも思わず、尚も上から目線で的外れな気遣いをする。そういう所も腹が立つ。挨拶にジャンル分けされるような、もはや口にしない言葉。風邪をひいた時、昨日髪の毛を乾かさなかったからだと思ったことがあるか。
「そんなことは1度も無い」
「そうかもしれないけどー」
言いたいことは山ほどあるのに、いざ口から出たのはいちばんどうでもいいところだった。
「乾かしてあげよっか」
軽く茶化すような受け売りの優しさ。心に引っかかりを残す声。
それでも拒否する言葉すら見つからないまま、ようやく冷凍庫の扉を閉めた。
無言は肯定と捉えられ、手に持っていたグラスを目の前に置き去りにし、洗面所へ向かっていった。その背中が満足げでやはり腹が立つ。
冷たい水が飲みたかった。キンキンに冷えた飲料が。水が氷になる時間を知らないし、そろそろ訪れる眠気の為に、このアイスコーヒーを自分は飲むことが出来ない。あいつと違ってコーヒーを一口でも飲んだら眠れなくなる体質を、この先何度恨まないといけないのだろう。
諦めて水を1口飲んだ。生ぬるかった。
「泣いてる?」
「は?」
「あ…ごめん」
影か、涙の跡の見えて。そう君は言った。
どんな勘違いだよ、泣いてたら意味わかんないでしょ。
はたから見たら。
「…なに言ってんの
これから泣くんだよ」
「あ……なんかごめん」
ピンときてなさそうな顔で形だけ謝られる。ずっと間違ってる。