公園のベンチで目を覚ますと、
いつもの新宿の街の喧騒。
始発で帰るつもりが、寝過ごしたらしい。
公園を出て、駅へと向かう。
途中、昨日見たデザイン関連の会社の前を通り過ぎようとして、思わず立ち止まる。
見慣れた、消費者金融の事務所が看板を掲げていた。
駅へと走り、そこが新宿駅であることを確認。
…ロンジュキはどこへ行った?
絶望が押し寄せてくる。
どうしていいか分からずに、とにかく現状を伝えようと、妻にLINEする。
「始発で帰るつもりだったけど、もう家には帰れないかもしれない。」
しばらく待つと、既読が付いて、しばらくすると、返信があった。
「昨夜、変な夢を見たの。あなたが、駅のホームのベンチに座り込んでる夢。それを私はそばで見てた。あなたは私とLINEして、駅を出て、消費者金融の会社に火を付けるの。あなたは泣いてた。私の名前を呼びながら。」
ああ、昨夜こっちの世界にいた自分は、計画をやり遂げた訳だ。いや…それとも、俺は自分が昨夜やったことを忘れているだけなのか?
でも、事務所は燃えていなかった。
妻からの追伸が届く。
「何がどうなってるのかは、私には分からない。でもただ、あなたに帰ってきてほしい。」
人であふれる、新宿駅のいつものホーム。
もちろん改札には壁なんてなかった。
きっと俺は、一夜の夢を見ていたんだな。
妻と同じように。
ずっと夢を見ていたいと思ったけど…いや、違う。
あの夢の続きでは、妻の気持ちは伝わらなかった。
今、何よりも大切なものを手に入れた気がして、
俺は今すぐ、妻のもとに帰りたいと思った。
ずっとこのままじゃいられない。
駅のホーム。
夜の帳が降りて、次の電車は来ない。
ベンチに座って、どうしたもんか考えている。
いつも通る改札が、ただの壁になってた。
駅から出られない。
ホームには誰もおらず、辺りにも人の気配はない。
思えば、この駅に降りたのが自分一人だったことが、そもそもの異常の始まりだった。
だってここは新宿駅。金曜の夜。
ほぼほぼ満員だった電車は、自分を残して走り去った。
そして、次の電車は来ない。
いざとなったら、線路に降りてフェンスを乗り越えようか…と考えていた矢先、スマホが震えた。
画面を見ると、妻からのLINEだった。
「どこにいるの?」
シンジュク、と書いて返信する。
「どこそれ?ロンジュキのこと?」
ロンジュキ…そんなお店があったっけ?
いや、新宿駅だよ、と送ると、
「ちょっと…どこの駅よ、それ。」
…ヤバい。何かヤバいことに巻き込まれてるようだ。
そういえば、街の灯りがまるで見えない。
深夜とはいえ、新宿だぞ。
金曜の夜に、まるで人の気配がしないとはこれいかに。
ふと気付くと、目の前に駅名表示板があった。
そこには、「論寿樹」と書かれている。
ロンジュキ…これか。ここがロンジュキなのか。
新宿じゃなくて、論寿樹。
あれ…もしかして…スマホを取り出し、妻にLINE。
「どうすれば、改札を通り抜けられるんだっけ?」
「チャージ切れなの?ちゃんと壁にタッチした?」
改札だったはずの壁に定期をかざす。
壁が消えて、見慣れた改札が現れた。
いつものように改札を抜けて、駅を出る。
見覚えのある新宿の街並みが広がっている。
でも、車の一台も走っていない。
信号までが消灯している。
「もう終電ってないのかな?」
「こんな時間に電車なんてないよ。」
まだ23時。
この世界は、微妙にルールが異なっているらしい。
目的地のビルの前に立つ。
ここに来るまで、誰一人として見かけなかった。
そして、消費者金融だったはずのその事務所は、
デザイン関連の会社に姿を変えていた。
妻に、明日朝の始発で帰るとLINEする。
どこのホテルもお店も営業してないから、公園で時間を潰すしかないらしい。
それでも、500万の借金を帳消しに出来て、
なおかつ、放火魔にならずに済んだということだ。
いいじゃないか、この世界。
俺は公園のベンチで眠りについた。
明日の朝、目覚めても、
これが夢なんかじゃなくて、
ずっとこのままでありますように。
被災地に向けて、祈りを届けよう。
何の役にも立たないけど、
祈ることしか出来ないんなら、
自己満足でいいじゃないか。
自分がその立場になった時、
どこかで誰かが無事を祈ってくれてると思えるんなら、
こんなに心強いことはない。
無関心が一番さみしいよね。
寒さが身に染みて凍える夜も、
乗り越えてゆける強さが、あなた達にはきっとある。
他人を思いやり、分け合う優しさが、
どんな状況にあっても、私達の心にはあふれてる。
そうであることを祈り、
そうでありたいと願う。
綺麗事かもしれないけど、誰かを救いたいと祈る気持ちが、
人を成長させると思うんだ。
絵空事かもしれないけど、誰もが幸せであれと願う気持ちが、
世界を変えてゆくと思うんだ。
だってそーやって人は、この地球を守ってきたじゃないか。
戦争を始める馬鹿もいるけど、命がけで他人を救うバカもいるんだよ。
I see friends shaking hands
Saying, How do you do?
They’re really saying
I love you
この素晴らしき世界に生きて、
もっと成長したい。世界を変えていきたい。
だから、被災地の人達、頑張って。
何の役にも立たないけど、世界の片隅で祈ってるよ。
これから20歳になる人。
今、20歳の人。
少し前に20歳を迎えた人。
遠い昔に20歳を迎えた人。…今ここ。
20歳の頃は、想像も出来なかった今の自分。
ちゃんと働いてるのか、結婚は出来るのか、子供はいるのか、家族は作れたか、健康に生きてるか。
その答えを知れたことは嬉しい。
すべてが望み通りではなくても、今ここに、20歳の頃を振り返れる自分がいることが。
途中で人生を投げ出さずに、のらりくらりと生きてきたこと。
死にたいくらいに辛くても、「なんとかなるさ」でなんとかしてきたこと。
好きだった人。嫌いだった人。
大切な人との別れや、大切な人との出会い。
そして、今ここ。
私は、幸せです。
たとえ未来が真っ暗に思えても、実際に訪れる未来がどうなのかは誰にも分からない。
そこまで生きていくしか、それを知る方法はないんだから、まだまだ生きてやろうじゃないの。
20歳の頃には想像出来なかった今の自分のように、人生のマスターと呼ばれるほどの年齢になった自分にいつかきっと会える。
…いや、マスターにはなれてなくとも、今の自分を懐かしく思い出せる自分に。
そんな人生も悪くないな。
年を取るのもイイもんだと思える。
映画の結末はちゃんと観たい派だし、いろいろあったならなおさらだ。
まさに、自分が監督の「素晴らしき哉、人生!ディレクターズカット版」ってところか。
オリジナル観てないけど…。
とりとめなんて無い、それもまた人生。
三日月ってのはこちら側の見え方の問題で、
月そのものは何も変わってない訳で、
角度とか、他の星との位置関係であーゆー風に見える訳で。
満月だってすべては見えていない。
裏側があるからね。
人間もそーだよね。
人によって、その時々で見え方が違う。
時には、自分の言動が影響して相手を変えてしまうこともある。
地球が影を落として三日月を作ってしまうように。
消え入りそうな、か細い三日月。
でも、まん丸い月がそこにはある。
今夜は、身を潜めていたい気分なのかな。
そのすべてを知ることは出来ないけど、
知らないままでいい、ともに太陽の光に照らされたいと願う。
お互いの傷をいたわるような、暖かい太陽の光に。
今度、白昼の月を見たら、何だか癒やされそうだ。
蛇足だけど、ネットで調べたら、
地球が反射した太陽の光によって月の暗い部分が照らされる「地球照」という現象があるらしい。
なんか、イイね。