冬晴れ
僕の街では10時、12時、17時と1日3回鐘の音が鳴る
それは晴れの日も、雨の日も、そして雪の日も
「住野くん、これレジの後ろに置いといてくれる」
広瀬先輩にそう言われて「はい、わかりました」とだけ言って、言われた通りに本のたくさん入ったダンボールを持ち上げた
この重いダンボールも運び慣れたものだ
僕は本屋さんで働いている
「ゴーンゴーン」
そして1日の最初の鐘の音と共にこの店の営業は始まる
僕はブックカバーをつける
「1000円お預かりします」
レジを動かす
「220円のお返しになります」
そしてお客さんにお釣りを手渡す
「ありがとうございました」
お客さんはお釣りとブックカバーに包まれた本を持って去っていく
と思いきや、そのお客さんはレジの前まで戻ってきた
そして少し会釈だけして、レジの前に置き忘れたのであろう傘を取りに来たのだった
今度こそ店の外へと出ていってしまった
僕は斜め後ろにある窓から外を覗き込む
雨が降っていた
「ゴーンゴーン」
12時の鐘の音が鳴って、昼休憩の時間である
僕は重たいダンボールの中から本棚へと本を移していた
明日から恋愛小説特集棚を設置するのだ
今日の締め作業時は他の作業があるとのことで、少し早めに展開を始めている
最近SNSで話題になっている目玉の本は面陳列して目立つよう置く
そしてダンボールの中が空になり、本棚の一角が恋愛小説で埋まる
「住野くんそろそろ上がりの時間だよね。POPは僕が付けておくね。ありがと」
レジに立っていた森田先輩がそう言ってくれた
「ゴーンゴーン」
ちょうどそのタイミングで僕の勤務時間の終了と共に1日の最後の鐘の音が鳴った
「お疲れ様です。」
控室で着替えて帰り支度をして、レジに立っている森田先輩にそう告げて店を出た
「あっ」
僕は傘を開こうとしたが、その手を止めた
昼間に降っていた雨はいつの間にか雪へと変わっていた
僕は傘をささずに帰路へと着く
「明日の朝は寒くなりそうだな。」
「さむっ」
朝家の窓を開けると、そこら中に雪が積もっていた
寒さに辟易とした
今日は遅番でこれから仕事がある
「ゴーンゴーン」
その時1日の最初の鐘の音が鳴った
「そうかぁ。みんなこんな寒いなかでもがんばってるんだな。僕もがんばろうか。」
幸せとは
「先生。相談したいことがあります」
私は誰もいなくなった放課後の教室で、受け持つクラスの生徒からそう言って相談を受けた
「うん。いいよ」
私の了承の言葉を聞いて、その生徒は扉から自分の席へとついた
私は教卓に手をつけ体重を預けて、相談の内容を待つ
教卓には私、そして一つの席を残して誰もいない教室内には沈黙が広がる
「先生。幸せとはなんですか」
少し硬い表情を覗かせている
「幸せかぁ。」
私はその単純ではある言葉の核心を考える
「何が幸せと思うかは人それぞれ違うんじゃないかな」
私なりの返答を出した
「、、、」
何か深い悩みを抱えていると見える途廻(とまわり)くんは俯いていた
そこに私は聞いてみた
「なんで聞いたの。なにかあった。」
そうしたら途廻くんは話してくれた
「僕は幸せなはずなんです。毎日ご飯も食べれて、こうやって学校にも来れていて。それなのにより幸せを求めようとする。それって僕が強欲であるからなんですかね」
「強欲であることは絶対的な悪ではないよ。本当の悪は、この世には存在しないから」
そしてさらに私は途廻くんへと質問をする
「どんなときにそれを強く感じたの。話せる範囲で話してくれていいんだけど」
途廻くんの表情は先ほどよりも少しほぐれたように思える
「事あるごとに落ち込んだりするんです。波があるって言うんですかね。例えば、その、なんか、仲良くなりたい人が他の人と仲良くしてると、落ち込んだりとか。そんなことでって思うかもしれないんですけど、そういう些細な事でも強く落ち込んでしまうことがあるんです。」
途廻くんはどこか恥ずかしさを抱きながら語ってくれた
私はゆっくりと歩いて教卓から途廻くんの隣の席へとついた
そして途廻くんと同じ方向を向いて私は答える
「私が思う幸せは『相対的落差』かな。
ずっと幸せな人はそれが当たり前になって幸せだとは感じない、客観的に見れば幸せのはずなのに。でもずっと不幸な人に幸せが舞い降りると強く幸せを感じる。その逆も一緒。普段幸せだから、ちょっとした些細なことで強く落ち込んだりする。」
横を向くと、途廻くんは考え込んでいるようだった
私はそこに付け加える
「まずは途廻くん自身の幸せが何なのかを一緒に考えてみよっか」
日の出
私の名前は未衣(みい)、花の女子高生!
「何が違うんだよ〜」
私はこの問答に机にうなだれ、めんどくさくなっている
彼女の名前は夜(よる)、不思議な女子高生!
「だから!『人と違ってる』って言われるのは嫌!」
夜はものすごい熱量を私にぶつける
そしてさらに続ける
「でも!『変な人』って言われたい!!」
夜の熱量はその言葉通り変だ
だからそのまま私は伝えた
「夜、変人。」
「、、、」
先程までの熱量を感じさせない静けさに夜の方を見る
夜は嬉しそうにニヤニヤしている
新年最初の初笑いである
『やっぱり変人だ』
そして私もつられてニヤニヤしてしまう
でもわたしは夜のそんなところが好きなのだ
君が見た夢
僕はその夢を忘れてしまう
夢は何のために存在するのか
僕はどんなことにも意味を求めようとする
空は青い
そこに意味を求めたことなんてない
吸う息は痛い
それは寒いから
意味は考えれば簡単
でも重ねれば壁が見えてくる
そんなのはどうでもいい
夢は何のために存在するのか
君はどんな夢を見ているの
君が見た夢
そこに意味を求める僕
僕のためより君のためなら求める
燃える葉
轟々に燃え上がる炎
キャプファイアーを囲んで、死のゲームが始まる
僕はいずれ自分の身が焼かれるかもしれない炎を眺める
そこには落ち葉がひらひらと落ちてきた
そして燃えた
『今からデスゲームを開始します』
何事もなかったようにアナウンスが始まる
この落ち葉のように僕の死は、何事もなかったように過ぎ去っていくのだろうかと、僕は自分の運命を悟った