揺れる木陰(2025/07/18)
【プロローグ】
心地のいい風が吹く。
私の長い髪、長いスカートが揺れる。
木々が揺れる音がして、私は思わず振り向いた。
そこには大きな木が立っていて、枝や葉が揺れていた。
そしてその大きな木と同じように木陰も揺れていた。
揺れる木と揺れる木陰、同じであって同じでない。
この揺れる木陰に気づくのは私だけ。
「似てるね、君も私も」
私は1人のとある女の子に恋をした。
これは、同性愛というものなのだろうか。
それに気づくのは私だけ。
風が吹けば木が揺れるように、人を好きになれば人は恋をする。
だから何もおかしなことではないのに、私は自分の恋心に後ろめたさがあった。
その恋心を誰からも気づかれぬように隠した。
中学を卒業し、高校を卒業し、そして大学生となった。
【第1章】
「おっはよー!せんせー!私、成瀬凛っていいまーす!」
静寂だった1時間目の授業が終わり、教室の隅でその授業を見ていただけの私に最初に話しかけてくれたのはすごく明るい声の女の子だった。
「おはようございます、成瀬さん、そしてはじめまして内田恋です」
私は教育実習初日ということで緊張もあって、そんな固い挨拶をしてしまった。
「知ってますよ〜!授業の最初に自己紹介してたから、レンせんせー」
成瀬さんはすごく楽しそうな笑顔だ。
「ん?!レン、せんせい?えーと、できれば内田先生って呼んでくれるとありがたいんですけど、、、」
予想外の角度から槍が飛んできた感覚だった。
私は丁重に、そして先ほどの反省を生かして、できるだけ柔らかく伝えた。
レン先生と呼ばれるとは、あまりにも友達すぎる気がしてよくないかもしれないと思った。
「え〜、なんかレンせんせーの方がしっくりくるから!」
まるで駄々をこねる子どものように抑揚の激しい言い方だった。
まぁ実際中学生だから子どもなのは間違いはないのだが。
「私もレン先生の方が呼びやすいと思います」
成瀬さんの左後ろにちょこんと立っていた女の子が控えめにそう言った。
「え〜とっ、、」
私はその子の名前がわからなく言葉につまってしまった。
「あっはじめまして、帆高愛です、よろしくお願いします」
帆高さんは気づいて自己紹介をしてくれた。
「帆高さんですね、よろしくお願いします」
またしても硬くなってしまっている。
「で!レンせんせーって呼んでもいいですか?!」
「多数決で言ったら私たちが勝ってます」
成瀬さん、それに続いて帆高さんも楽しそうだ。
「んん~じゃあいいですよ」
迷ったが私はその方が硬くならずに柔らかくなりやすいかなと思い、そうすることにした。
「やったー!!よろしくねぇ〜レンせんせー!」
「よろしくお願いします、レン先生」
またしても成瀬さん、帆高さんと順番に喜びを顔に出していた。
「よろしくお願いします」
そして私もそう言って喜びを顔に出した。
外が赤く染まりはじめる中、私は職員室の一角にある席について教育実習初日の日報を作成していた。
「よっ!内田、初日はどうだった?」
話しかけてくれたのは中学時代の担任であり、今回の教育実習で私の教育担当をしている真田先生だ。
「そうですね、もっとこう、先生として何か生徒のためにしたいけど、何をしてあげれるのかがわからないですね」
私は胸の内を打ち明けた。
時間が人の心をこじ開ける、常に関わりがあったわけではないが中学時代からの関わりがある真田先生になら打ち明けられた。
「うんうん、まぁそうだな、そんな深く考えすぎずシンプルに考えたらいいんじゃないか、俺はそうやってきた」
「そう、ですか」
「おぅ、なんかあったらいつでも言えよ」
「はい!」
そう言って真田先生は職員室から出ていってしまった。
シンプルかぁ、、
【第2章】
「じゃーん!!レンせんせー!ここが私たちの秘密基地でーす!」
今日も成瀬さんは元気で明るい。
少なくとも初めて会ってからもう3日はこんな感じだ。
「わざわざ昼ご飯を外で食べようなんて考える人がいないから、いつも私たちだけなんです」
そうやって状況をきれいに説明してくれたのは帆高さん。
「そうそう!」
それに楽しそうに頷く成瀬さん。
「そっかぁ、私が学生の時は人気だったんだけどなぁ」
そう思い出にふける。
「えっ!そうなんですかっ!?楽しそー」
「たしかに」
実際、当時は人気で人が多く私は避けるようにしていたから、あまり楽しいものとは思えなかった。
でもそんな思い出も今となっては良いものと感じる。
だからこそ、この誰もいない昼休みの屋上は何か物悲しくとも感じる。
「よしっ!ではでは!お昼ご飯ターイム!!」
成瀬さんの掛け声で楽しい昼ご飯タイムが始まる。
「むむ~どうするべきかぁ」
「どうしたの?凛」
私はお昼のサンドイッチを順調に食べ進めていると、横で弁当とにらめっこして何かを悩んでいる成瀬さんに目が止まった。
そして成瀬さんを挟んで反対側にいる帆高さんが、唸る成瀬さんに疑問をぶつける。
私もその答えが気になり、成瀬さんを見つめて答えを待つ。
「んん~今日のお弁当、どの順番で食べよう」
「なんだぁそんなことかぁ」
帆高さんはそんなツッコミをして、自分で作ったという卵焼きにかぶりつく。
「なんだっとはなんだ!!」
「どうせ同じ胃袋の中に入るんだから順番なんてなんでもいいでしょ」
またツッコミを入れ、口の中の卵焼きを咀嚼している。
「ちっがーう!!大事だよ、順番は!食べる順番によってその食事のクオリティが大きく左右されると言ってもいい!」
「あっそう、お大事にー」
残り半分の卵焼きを口にする。
「ん?お大事に?」
私は成瀬さんの角の立たない明るさと帆高さんの現実的過ぎるツッコミとそして2人の会話のテンポの良さに思わず笑みをこぼしながらそのツッコミを疑問形で復唱した。
「んあ~っ、最っ高の食事だった~!、、、あっ」
”カランッ、コンコン”
成瀬さんは空になった弁当箱を左手に、お箸を右手に持ったまま両手を天に掲げた。
そして気が抜けたのか、お箸を一本落としてしまった。
「「あっ」」
「えっえっあっあっ、、、はい!」
「ありがとっ、、、て、耳が真っ赤になってるよぉ~。ねつぅ~?」
「うわっ!!あっあっ、、、だ、だいじょうびっ、、、」
「え~ほんとぉ?」
私は、木陰が揺れるのを感じた。
落ちたお箸を拾った帆高さんの手に、お箸を拾おうとした成瀬さんの手が覆いかぶさった。
帆高さんは動揺しながら成瀬さんにお箸を渡し、赤くなってしまった顔を隠すために向こうを向いた。
でも、耳だけは隠しきれずにバレてしまう。
さらには、成瀬さんは帆高さんの額に手をあてた。
それに対して動揺を大きくした帆高さん。
私だけが気づいた揺れる木陰。
『似てるね、君も私も』
【第3章】
私が教育実習に来てもうすぐで一ヶ月になる。
あと3日で終わる。
まだ生徒に何もしてあげられていないのに。
私はただ気付いただけ、何もしてあげられていない。
”コンコンコン”
「失礼します、2年L組の帆高愛です。プリントの提出に来ました。真田先生いますか」
帆高さんは職員室の扉を開け誰に向かって言うでもなく、目をいろんなところに向けて真田先生を探しながら言った。
しかし探し出すことが出来ず、最後の言葉を私に向けて言ってくれた。
「今、真田先生外してるから机の上に置いておきますね」
私は帆高さんに近づきながら告げて、たどり着いた時には手を差し出した。
「はい、ありがとうございます。レイ先生」
「はい、うけとりました。帆高さん」
私は何かしてあげないとと焦り、提案をした。
「帆高さん、ちょっと歩かない?」
「はい、、、」
「だいぶ暑くなってきましたね」
まずは気候の話をするのが定石だと思い放った。
「そう、、ですね」
私たちは夕暮れ時の閑散とした放課後の校庭を二人並んで歩く。
「、、、」
「、、、」
きっかけは多少無理に作ったものの、どうすればいいのだろうか。
気づかれぬよう隠している悩みを、気づいていない振りをして解決させる。
まだ未熟な教育実習生の私には解答を導き出せない。
沈黙が続く中、何か言わないとと帆高さんの方を向く、すると風が吹く。
帆高さんの長い髪、長いスカートが揺れる。
そっか、、シンプルかぁ。
私は前を向いた。
「帆高さん、私ね、中学生の頃好きな人がいたんです」
「えっ、」
帆高さんは顔を私に向けている。
「同じクラスの、女の子なんです」
私は前を向いたまま進み続けた。
「ん?!そう、、、なんですね、、」
帆高さんは今度は俯きながらも私に合わせて進み続けてくれる。
「私はその気持ちを後ろめたく思い誰にも言えなかったんです、、、でも一つ後悔していることがあるんです」
帆高さんは黙って私を見つめている。解答を待ち望んでいる。
「せめて、その女の子にだけはこの気持ちを伝えればよかったっ、、、て」
「、、、えっと、、その、、」
帆高さんは戸惑っているようだった。
まぁそうだよね。
私は帆高さんに真っすぐ向き直り、言葉を紡いだ。
「そうやって人間みんな、そんな後悔をして生きているからたとえどんな結果になったとしても、自分のことを恨まないであげてください!」
私は笑顔で締めくくった。
帆高さんは遠くを眺めて何かを考えている。
私は本当にこの解答で良かったのかと不安でいっぱいになる。
不安の台風が私を襲う。
息がつまるような風に、胸までぎゅっと締め付けられた。
「はい!ありがとうございます!」
帆高さんは私に笑顔を向けてくれた。
曇り雲が晴れて、私の不安はきれいに消え去った。
そして帆高さんはどこかへ走り去っていく。
私はそれを笑顔で見送る。
帆高さんは急に私の方に真っすぐ向き直り、にっこり笑って言った。
「多数決で言ったら私たちの勝ちですね」
Special day
「はぁ今日も散々だったなぁ」
俺は今日も会社でミスばかりコカして、落ち込んでいた。
「ただいま〜」
家族が待っているはずの家へと帰ると、誰もいなかった。
部屋は真っ暗だ。
「本当に今日は散々だなぁ」
"パンッ""パンッ"
急に明るくなり、視界がぼやける。
少ししてから前を見ると、そこには俺が好きなモンブランのケーキと俺の好きな妻と娘がいた。
「「誕生日おめでとー、パパ〜」」
僕はなんとなくの気持ちでペットショップという世界へと足を運んだ。
だがそんな何となくの気持ちが僕を苦しめることになるとは考えもしなかった。
お店に入るとまずは少しの獣臭さを感じたがそこまでは気にせず歩を進める、そしてたどり着いた。
ショーケースの中に入っているねこちゃんは奥の隅の方でこちらに背中を見せ寝ていた。
そこには世界があった、ショーケースという世界、その外にはペットショップという世界、その外にはショッピングモールという世界、さらにその外には日本と、無限に広がる世界の一部の世界がそこにはあった。
そして僕が近寄って、中腰になり見つめようとした時には猫ちゃんは僕の存在を認めて、こちらに左に首を回して見てきていた。
まるで珍しいものを見るような丸い目をしている。
それはおそらくここのペットショップの影響もあるのだろうかと感じた。
僕がここに来たときからすごく広いわりに他のお客さんが見当たらない、おそらくいつもこんな感じなんだろう。
だから人が来ただけで珍しいと思う。
そしてまた首をもとに戻してるのかと思いきや、今度は右側から首を回して僕の方をみてきた。
そしてこちらに近寄ってきた、ショーケースの隙間から鼻をクンクンさせて、おそらく僕の匂いを嗅いでいるのだろう。
その光景に少し胸が痛む。
そしてねこちゃんも中腰のようになり、ショーケースの中から外へと目を向けていた、僕を見ていたのかはわからないが、ねこちゃんは下の方を見ていた。
もしかしたら首を上に動かすのが面倒だったのかもと僕は思い、少し心のなかで微笑む。
その顔に合わせるように僕はしゃがんでねこちゃんとの目線を合わせた。
そしたらねこちゃんと僕はしばらく見つめ合った後、ねこちゃんは僕に大きな背中を見せて横になった、顔も向こうに向けている。
疲れちゃったのかな、僕はまたここのろ中で微笑む。
こうやってショーケースという小さい世界でずっといるであろうねこちゃんを想像すると、僕は心が少し痛む。
この子は、この子たちは誰かに指名されるまでずっとこの世界がすべてだと思ってい生き続けるのかなと考えてしまう。
世界はもっと広いことを知らないままでいるのだろうかと考えてしまう。
無知であることは第三者としてみれば心が痛むものだ。
そしてもう帰ろうかと立ち上がるとショーケースの右上には値段が書かれているポップが付けられていた。
それを見て、また僕はさらに心を痛めた。
もしかしたら日本というショーケースの世界に入れられている僕のことを心を痛めてみている何かがいるのかもしれない
真昼の夢
「おまえは醜い!」
「おまえは社会不適合者だ!」
「おまえはこの世の中にいらない!」
「早くし、」
15時、僕は今日もこの時間に目を覚ました
不眠症とは恐ろしいものだと実感した
夜に寝れないくせして、昼には寝れる、なんでなのだろうか
体中が痺れる、頭痛、体のダルさ、気持ち悪さ
休息のための睡眠なのに、寝起きにはいつもこれらがつきものだ
今日も罵倒される悪夢を見た
いつも決まって悪夢を見るのは昼だ
今日も夜がやってきた、僕は寝るのが怖い
明日が来るのがどうしょうもなく耐えられない
だから今日も夜遅くまで非生産的な動画ばかり見て過ごしている
だからといって勇気を出し動画を止めて、部屋の電気を消して寝ようとしても、寝れない
どうやって寝ればいいのかもわからない、昨日までの僕はどうやって寝ていたのかすら思い出せない
手紙を開くと
「これって、、何のやつやっけ?、、」
私は都会の大学に合格して今年の4月から上京するための荷造りをしていた。
その最中、私は見覚えのない手紙を見つけた。
小さい頃によく読み聞かせてもらっていた絵本の間から落ちてきたのだ。
、、、私は自然とその手紙を開けていた。
「これ!?」
「ねぇお母さん、これ、、」
私はリビングでお昼のバラエティ番組をおかずにお茶でくつろいでいた母に先ほどの手紙を渡す
「なぁに?手紙?そんな書く子やったっけ?」
「なんかあった」
私はテレビを見ながらそう言う。
「そうっうふふ、ありがとね」
母はそう言って手紙を受け取り早速開く。
「『おかあたん、だーーいすき』ねぇ」
お母さんはわざわざ声に出して読み上げた。
「音読せんでええよ!!」