『moonlight』
ドビュッシーの『月の光』は、穏やかで静かに眠りを誘う。
ベートーヴェンの『月光』は、静かな重みをもって物思いに耽らせる。
月明かりで本を読めたら、素敵。
そう思って何度かチャレンジしたけれど、目にかかる負担が大きいのでやらなくなった。
なので専ら、雰囲気を楽しむための曲をかける。
月の光には、ピアノ曲がよく似合う。
ただ窓を開けて、月明かりを全身に浴びる月光浴は贅沢だ。
折しも、今宵は中秋の名月。
可愛らしい月見だんごを窓辺に置いて、のんびりしたいものである。
『cloudy』
空を見上げるのが好きだ。
雲の形を眺めるのも好き。
羊やら兎やら、時には竜やゴジラも。
いろんな形で見ていて飽きない。
夏なら雄々しく立ち上がるモクモクの入道雲。
秋なら刷毛ではいたような薄い筋雲。
空を横切る真っ直ぐな飛行機雲や、
雨を予感させる垂れ込めた乳房雲。
猛暑で疲弊した体には、暗く曇った空ですらありがたく感じる。
雨が続けは晴れを願い、
晴れが続けば雨を乞う。
実に勝手なものだが、一喜一憂してしまうのは、もうこれ、しょうがないよねぇ。
『既読がつかないメッセージ』
みんなの投稿を見ていたら、
他のお題の時よりも闇が濃い。
『靴紐』
靴の踵を3回鳴らすと家へ帰れるのは、『オズの魔法使い』。
美しいガラスの靴が本人確認となって王子様と結婚するのは、『シンデレラ』。
西洋では、靴は幸せを運ぶものなのだろうか。
ホテルやショップでは、まず客の足元を見て判断するとも聞く。
長らく和装で暮らしていた日本人のDNAを持つ私には、ちょっとピンとこない。
「お洒落は足元から」なんて言葉も浸透しているが、きっと根本的なところはわかっていないように思う――土足文化で裸足を忌避する肌感覚までは。
昔、駅にいた靴磨き職人のおじいさんに聞いたことがある。
「不思議とね、磨き上げた後、靴紐を結び直す瞬間にその人の余命がわかることが、稀にある」と。
その余命が当たっていたがどうかどうやって確かめるのか、なんて野暮なことは聞かなかった。
ただ「そうなんだ」と頷いただけ。
あの僅か数十センチの靴紐にそんな不思議が隠されていたとはねぇ、と。
『答えは、まだ』
ずっと続く暑さのせいで、本を読んでいても頭にスッと入ってこない。
読んでいるつもりでも、気づくと同じページをぼーっと眺めていたりする。
普段ならそれでもいいのだけれど、図書館から借りてきた本だと事情が変わる。
返却期間内に読み終わらないのだ。
延長できるものは延長するが、次の予約が入っているものはなんとしても期限までに返さなくては、と焦ってしまう。
一度返して、また予約を入れ直して、順番が回ってくるのを待つ。
――ということも、もちろんする。
するけど、しかし。
私はミステリ好きなのだ。
読んでいる本の八割はミステリだと言っていい。
途中まで読んだミステリの、犯人が誰か動機は何かトリックはどうやったのかを分からないまま、数週間から数ヶ月待つことのモヤモヤときたら……
もちろん悪いのは私である。
決められた期限内に読み終わらなかったのは、私なのだから。
そうして期限ギリギリまで足掻きに足掻く。
今日が期限のこの本を、仕事終わりに図書館の返却ポストに入れなくては。
ああ、もうじき昼休みが終わる。
まだ、犯人の名前が出でこない。
私は自分で推理して楽しむタイプじゃないんだ。早く答え合わせをしてほしい。
でも、最後のページだけ見るなんてことしたくない。
ああ、あと5分したら洗面所に行って歯磨きしなくちゃ。
でも、この謎の答えは、まだ――