イオリ

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4/6/2024, 10:27:35 PM

君の目を見つめると

 全てが見透かされているような気がして、いつも君の視線をかわす。

 きれいな景色を見たり、レストランで食事をしたり、新しい音楽を聞いたり。そこで僕が感想を言おうとすると、いつも戸惑ってしまう。何を言おうとしているのか、君の瞳にすでに読まれている気がするんだ。

 トランプをしても、いつも君が勝つ。こっちの手札もきっと丸見えなんだろうね。

 でも。やっぱり、ちょっと悔しい。

 だから今日からは、僕も君の瞳を逃げずに見るよ。君のこと、もっとよく知りたいから。


 ……あれ? どうしたんだろう。上手く見れないや。

 ねぇ、ミャクミャク、君の瞳は一体どこを見ているの? ていうか、僕はどの目を見ればいいの。教えて、ミャクミャク。

4/6/2024, 2:12:47 AM

星空の下で

 ブランコを静かに揺らして待つ。聞き慣れたスニーカーの足音がやってきた。

 遅い。

 ごめん。猫が起きちゃって。 そう言って彼女は隣のブランコに座った。

 幼なじみだ。幼稚園からずっと一緒。中2ぐらいから、夜中に抜け出して公園で会うようになった。何をするわけでもない。学校のこと、好きな音楽のこと、ゲームのこと、そんなことをダラダラとしゃべるだけ。高校生になってもこの習慣は続いていた。

 
 あのさ、 彼女が珍しく神妙に切り出した。

 やっぱりだめっぽい。

 離婚?

 うん。

 そっか。

 前に1度だけ、この話が出た。父親の不倫が原因らしい。僕はなんと言っていいかわからず、今みたいに、そっか、とだけ返したと思う。

 よくある話よね。

 うん。

 こういうの他人事だと思ってた。

 うん。

 うん、ばっかり。

 うん。

 そこからしばらくは無言だった。ブランコの軋む音がいつもなら鬱陶しいのに、今日はなぜか有り難く感じた。間をつなぐ唯一の存在だったからかもしれない。

 時計を見た。午前3時。いつもの解散の時刻だ。
 
 3時ね。 彼女が先に立ち上がった。

 じゃあまた。

 なあ。

 ん?

 相手の女、殺してやろうか。

 彼女が目を見開いて固まった。が、すぐ笑顔を見せ、

 じゃあお願いします。と答えた。

 何くれる?

 んん、じゃあパン。くるみパン。

 殺しの報酬がくるみパンかよ。

 うん。今日作ったの。お母さんと。

 ……そっか。じゃあそれでいい。

 うん。明日学校に持って行く。

 彼女は背を向けて歩き出した。が、すぐ立ち止まって空を見上げた。
 
 悪巧みって、やっぱり夜にするんだね。

 明るい声だった。表情はわからなかった。今夜は月もない。有るのは青白い星だけ。シリウスだろうか。まあ、なんでもいい。

 じゃあ。

 ああ。

 彼女が去って行く。

 僕は彼女の足音が聞こえなくなるまで、ぼんやりとブランコを揺らしていた。
 

4/4/2024, 1:13:00 PM

それでいい

 小学生時、写生大会があった。2日間だったと思う。  

 4年生の時のこと。校庭でサッカーボールを蹴る瞬間を描いていた。数人でモデルを交代しながら描いた記憶がある。

 元々絵が苦手だった僕は、最初から好成績を諦め、いい加減にササッと描き上げてしまった。

 途中で担任が見回りに来ると、まだ描いてます、というポーズを取り繕う。その2回目だったと思う。

 もう完成したのか。

 まだですけど。でもほとんど出来上がりです。

 僕がそう言うと、担任が絵の中のクラスメートの太ももを指さした。

 ここ、よく見てみろ。本物はもっと丸みがあるだろ。 そう言って筆を取り、白の絵の具をつけて太ももに数本、線を載せた。

 ほら、こうすると立体的になるだろう。

 はい。 僕は素直に返事した。素直にそう思ったから。

 もう片方は自分でやってみなさい。

 はい。 僕はさっき見たのを真似て筆を走らせた。

 うん、そうだ。それでいい。 担任は笑顔を残し、別の生徒の方へ歩いていった。


 それから2週間後、学習発表会が催された。家族が来校し、子供たちの合唱と演劇を観覧する。

 写生大会で描いた絵は、この日、校舎内に展示されていた。体育館での観覧を終えたあとは、校舎の方に移動して子供の絵を見ることが出来た。

 この年は、祖父母も来ていた。学校では会わなかったが、帰宅後、大きな声で村人Aを演じた僕を、祖母は褒めてくれた。

 祖父はというと。渋い表情だった。

 彼は趣味で油絵をやっていた。絵の方で気に入らないことがあったのかな、直感でそう感じとった。

 絵、下手だから。 僕は祖父に言った。

 それはいい。

 なんか変だった?

 みんな同じ太ももだったな。 祖父は少しさびしそうにそう言った。

 
 翌日、学校で絵を見て気付いた。

 みんなというのは、一緒に描いていたクラスメートの絵のことだった。
 
 どの絵の太ももにも白い線が描いてあった。
 
 つまり、担任がその場にいた全員に、太ももに白い線を描くやり方をやらせたのだった。

 子供の頃は、なぜ祖父がそれを気に入らなかったのかわからなかったが、今ならなんとなくわかる。

 おそらく、人のやり方ではなく自分のやり方で描いて欲しかったのだ。創作の素晴らしさは、何よりも自分を表現することだ。周りと同じような絵を見て、それでいい、なんて、絵かきの祖父は絶対に思わなかっただろう。

 そうならそうとちゃんと言ってくれればいいのに、とも思うが、当時の僕には難しいと思ったに違いない。ごめんね、じいちゃん。

 

 

 

 

 
 

4/3/2024, 9:59:14 PM

1つだけ

 パキラを育てている。なんとか無事に冬越ししてくれた。

 パキラは基本的には、5枚の葉っぱを広げるが、6枚やそれ以上の数の場合もあるらしい。

 先日、水やりしながら状態をチェックしていると、1枚だけ付け根が折れて取れかかっている葉っぱを見つけた。

 5枚がバランスよく広がる姿が心地良いのだが、折れてしまっては仕方ない。渋々、その1枚を取り除いた。今までご苦労さま。

 後日ネットを見てみると、別の観葉植物の話だが、折れた部分をテープで固定している人がいた。完全に折れたり取れてしまったりしていなければ、もとに戻る可能性もあるらしい。

 そうか、そうだよな。植物も生き物だもんな。生きてる限りは、生きようとするよな。
 
 あっさりと取ってしまった自分は、なんて浅はかなんだ、と思った出来事でした。

4/2/2024, 10:06:44 PM

大切なもの

 頑張って作ったのだが……。


 どう?

 イマイチ。 年上の彼女が言う。

 なにこれ。

 野菜スープ。コンソメの。

 味付けは?

 だからコンソメ。

 だけ?

 だけ。

 あのさ、ちゃんと味見すればわかるよね、ちょっと薄いなって。

 ……そう言われればそうかも。

 塩こしょうまったくしてないでしょ。

 うん。必要?

 そりゃそうでしょ。こんなに薄味なんだから。

 ……ごめん。

 あなた、そういうところあるよね。これやっとけばいいや、みたいなところ。料理はね、食べる人のこと、もう少し考えなきゃだめよ。

 ……だからごめんって。

 もう。まあ、いいけどさ。突然料理するっていうから任せたけど。どうしたの?なんかあった?

 ……最近、野菜足りてないなって言ってたから。

 ……そっか。

 うん。塩こしょう、今からでもする?

 んん。いい。これで。

 じゃあ僕だけかける。

 なんでよ。じゃあわたしのにもかけなさいよ。
 

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