22時17分

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7/6/2024, 12:56:09 PM

大学4年生の春。
キャンパスにて花見をやったことがあります。
理科系の研究室に在籍しておりまして、あの頃は酒さえあれば何でもよろしい、という、のんだくれ予備軍みたいな単純な生き物でした。

キャンパス敷地内には八重桜が一樹だけ植わっており、その下で宴会風味なことをしたのです。
夜桜だったと思います。突発だったと思います。
グループラインで「今夜花見するんだけど」と女性の誰かが言い、いいねいいねと男ののんだくれたちが賛同するのです。僕もその中に含まれます。
突発から数時間しかありませんでしたが、あの頃の行動力はばかみたいなものでした。
家から思い思いのお酒を持ち寄り、その八重桜の下で夜桜花見をしたのです。

参加者は僕を含めて五〜六人。
ワイン、梅酒、果実酒、缶チューハイ、もちろんビールも。
何を敷いたのか知りませんがたぶんそのままだったと思います。そのままズボンに土をつけて座り、紙コップを配って、酒盛りを始めまして。
何を話したのかは記憶の彼方に消し飛んでいますけれども、深夜11時にお開きとなったことだけは存じ上げております。お酒が切れたのです。

しかし、キャンパスの夜というのは不親切でしてね。
折角の八重桜は観光地のようにライトアップしておらず、キャンパス内は真っ暗闇の中なのです。
一応時代は平成後期でしたので、スマホのライトで照らすんですけれども、無いよりましみたいなもので全然頼りになりません。
ただ言い出しっぺの女子生徒が立派な懐中電灯を用意しておりまして、それで首の皮一枚繋がったといいましょうか、一応花見の体裁はあったと言いましょうか。

上向きに置かれた懐中電灯って意外と頼りになるのです。あいにく夜空まで届きませんが、光の筋が見えるのです。八重桜の枝に光が引っかかって。
それが儚げで。でも、その光景をのんだくれ全員は見ておりません。花よりお酒、単純な生き物。お粗末。

7/5/2024, 2:46:29 PM

そうか、もうすぐ七夕だからか、と合点した。
日本ではもう星空なんていうもの、見れない代物になってしまっている。
田舎では見えるって?
残念、もう見れないよ、都会人。
君と同様、スマホの光にやられて視力が悪くなってるからね
皮肉めいたお題だなあと、僕はびっくりしたよ。
一体全体誰がこんな小汚い夜の空を見上げるんだい?
小説のネタにするって、ロマンチストのような物好きしか書かないんじゃない?

星空じゃなくて夜空のほうが現代人にはぴったりだ。
大抵の人は子供も問わずストレートネックだからね。
見上げなれてないんだ。見下しなれてるんだ、首は。
広大な空より狭く堅苦しいスマホ画面に夢中なんだ。
首の長いキリンだって、びっくりするよ。
どうしてそう目をおとすんだ?――とね。

空に星は似合わない。
雲に隠れた月――朧月夜のほうが、しっくりくるんだ。見上げたくなるんだ。肉眼で見れるから。楽だから。
星だと望遠鏡を持ってこないと見れないからね。
ああ、スマホが望遠鏡になってくれれば一件落着なんだけど。あちらの方から近づいてきてくれればこちらとしてもありがたいんだけど。

7/4/2024, 1:10:44 PM

神様だけが知っている、お気に入りの場所がある。
砂浜と海の水がせめぎ合う、波打ち際。
左には砂浜、右には夕景の海。
その境を歩いていって、足跡をつけたり、波の音を聞いたりしている。
私は影。伸びる人影。
左から右にかけて半島が伸びているのだろう、海に沈むように半島の先端が見えるが、一向に近づく気配がない。
足跡をつけた2秒後に、波がざざあと音を立てて、白いものか覆いかぶさり消えていく。
これを日が沈むまで続けていく。
波が繰るたびに感じる、足首の水の冷たさ。
その楽しみ――刹那の楽しみが、砂粒の数くらい心弾け、なお心地よい。