3/14/2025, 1:55:28 PM
〈ガラス玉〉
透明な世界にいたようだった。
それは決して美しい物への比喩表現ではなくて、
辛くてだるいだけの朝のことなのだけれど、
それでもそんな朝に楽しさを見出そうとして自分の通学路を他人事のように見つめてみた朝のことなのだけれど、
ずっと見ていると見慣れた光景ですら綺麗に見えてくる。
田んぼと、小さな住宅街と、挨拶さえも返してくれた事がないご近所さん。流行りの物も売っていないしオシャレなカフェもない憧れが憧れで終わってしまうここが、
大嫌いなはずなのに。
もしかしたら学校が憂鬱過ぎてこの光景が綺麗に見えすぎているのかもしれない、なんて思いながら重すぎる足を引き摺って歩く。
でも透明な世界にいるだけで、私は何かから逃げ出せるような、嫌いな日常から抜け出せるような気がした。
普段は見流してしまう小道とか、よく使う散歩の道を、
もし学校に行かないでここから遠くまで行ったのなら、
どんな景色が見られるだろうか、その時はどう言い訳しようか、なんて思いながら見るだけ。
それはガラス玉を太陽に透かすような、スノードームを覗き込むような感覚かもしれない。
そんなことをしながらつまらない私はまた、学校の門をくぐってしまう。
(透明)