#イブの夜
ぼくはね、まだ寝てないんだよ。
キィーーー……と嗄れたドアの声。
すと、すと、すと……、と板張りの床で足音を殺す音。衣擦れしない服を着て、まるで盗みに入ったみたいに、手と足を同じように動かして。
ぼく、知ってるんだから。
「ふぅ……」
あのね、きみのそういうところが、うかつでまぬけ。ツメが甘い。
それにね、こんなに一軒に時間をかけてちゃね、お月さまが同情してね、朝にならないんだよ。ずっと寝てなくちゃいけないの。
ガサゴソ大きな衣擦れ。あのね、パンピーなきみにはね、音の出ない白い袋はね、支給されないの。ぼくいい子だから、聞かなかったことにしたげる。
ポス――。
枕元に何かが置かれた。マットレスが少し沈んで。きっとそれ、ぼくが前にほしいって言ったワインでしょ。今日の夜にね、きみと飲みたかったのにぜんぜん買わせてくれないんだもの。普通はね、食べ物飲み物じゃないんだよ。お夕食にね、ほしかったものを食べ物飲み物を、楽しむの。
あとね、ぼくがまだトナカイとソリが宙に浮かぶって信じてるってね、幻想見るのはやめなよ。
ぼくが信じてるのはね、そんな、不確定なものじゃないの。単純明快、どストレートなのに。きみってばにぶちん。
ふわりと熱。
髪を撫でて右耳を包んだ。きみの血管がゴォォって。頬を触って、くす、って笑って。
あのね、起きちゃうんだよ。
ぼくがやさしくてよかったね。
ぼく、いい子でやさしくてきみ想いだから、ノってあげるの。
朝起きたらね、「わぁあ!」って。
それでね、ちょっと雑に包装を破ってね、、中身を見るの。きみの嬉しそうな顔を見て、うそでしょ! って言ったげる。明日の夜はね、そのワインに合うお料理、ぼくが作るから。
ね、きみへのすてきなプレゼントでしょ?
だから、はやくお布団に入って。
プレゼントはね、正体に目を瞑ったいい子にしか来ないんだから。
ぼく、ちゃんと確認しにいくからね。