特別な夜
今日、中秋の名月なんだって
……え?いやいや、あの中秋の名月だよ!?
普通の満月とは違うんだよ?
かの夏目漱石でさえ、こんな特別な夜に
「月が綺麗ですね」
なんてキザに言えないって!
「月きれいすぎない?」
くらいフランクになっちゃうって!
あーもーごめん!通話切らないでーー……
……んー、そうだよ
君と見たいからかけたんだよ、悪い?
…………
……分かってるって
話しかけただけだもん
冗談だって
え、ほんとに本気にしちゃったの?
……なわけないじゃんー!
これからの未来を歩く私が、
……君と月見るわけないじゃん……
…………ごめんね
……うん、楽しんでくる!
だから、……おやすみなさい
すきだよ。
あは、冗談
君に会いたくて
なんてね
美しい
まどろみの中見た景色が美しかった
色とりどりではない あの風景が
かっこいいでもない、かわいいでもない
ただ美しいあの風景に、映える人は多くなかった
僕には届かない舞台なのに
無性に足が前に出る
ステージの上だと足が震えるのに
無償の愛を届けたくなる
色褪せたフィルムには、憧れの中には
美しい以外に必要ないのだ
美しさに、憧れ以外の感情を、持っては行けなかった
どうして
白い壁紙の空間で
そんな言葉が響いたのです
丸く反響する声は
あなたへなのか わたしへなのか
淡い光の瞬間に
そんな気持ちが揺らいだのです
想石を投げ入れた海に
あなたもわたしも ちっぽけで
1mmの言葉を考えても
きっと答えは出ないのに
広大な未来を見るほどに
広大な過去を見るほどに
どちらに世界を見たとしても
私に選択権は無いのに
なのにどうして、あなたは私に優しくするの
遠くない景色を見たのです
青く光る残像の その先の景色を
手を伸ばせば届きそうなのに どうしても
僕たちはずっとここから
足が竦んで
胸が傷んで
苦しんで
きっとあの人にはどうでもいいことで
僕達はずっと ずっと
ずっと前から分かっていたことなのに
僕はずっと ここから動けないのです