正直
「正直者のじいさんが得をして、隣の性悪じいさんが痛い目に遭う話あるじゃん」
「昔話だね」
「あれさ、理不尽じゃね?」
「そう?」
「だって正直者のじいさんってたまたま運よくチャンスが舞い降りてきただけじゃん」
「でもさ、性悪なんだよ?」
「それは嫉妬心から結果そうなっただけかもしれないじゃん? 性悪じいさんにもチャンスがあれば、上手いことやってたかも」
「なるほどねぇ」
「というわけでチャンスをくれ」
「性悪だなぁ」
梅雨
たたたた たんたん たんたたん
白く煙った 空と街
霞がかった 山と塔
ゆううつそうな 人のため息
だだだだ ざんざん かんたたん
喜び満ちる かえるの歌と
濡れてつやつや 光る木々
雨音鳴らして 踊る傘
天気の話なんてどうだっていいんだ。僕が話したいことは、
「妖怪と幽霊と殺人についてだけだ」
「何そのラインナップ!?」
「早速話を聞かせてもらおうか。一昨日19時頃どこにいた?」
「いきなりアリバイ? その日はサークルの飲み会だった」
「そうか。ところで君はカッパを見たことがあるか?」
「マジで言ってる?」
「大マジだ」
「ない。信じてもない」
「そうか」
「ごめんお待たせ……って、もう話聞いちゃった?」
「和戸くん、何なのこの人」
「え? 変人」
「おい、助手のくせに不遜だぞ」
ただ、必死に走る私。何かから逃げるように。
走る。走る。走る。
肺が早朝の冷たい空気を吸い込んで痛む。
前へ。前へ。前へ。
ゼリーしか食べてないのに脇腹がキリキリしてきた。
もっと。もっと。もっと。
首に張り付く髪が邪魔だ。
それでも走る。駆ける。逃げる。
逃げる。逃げる。逃げる。
無神経なトモダチ。SNSのマウント合戦。教師の期待。親の過干渉。
そういうめんどくさいもの全部から、逃げる。
置き去りにする。
走る。無心で。
街並みの向こうに、朝日が顔を出した。
ごめんね
「ゆうくん?」
「……っえ、あ、なにか言った?」
「ううん。まだなにも」
「そ、そっか」
「ゆうくん、私に見惚れてぼーっとしてたでしょ」
「え!? いいいやそそそんな」
「ゆうくん、
かわいくてご・め・ん⭐︎」
「……!!」
「え、ちょ、ツッコんで!? 私がイタイ子みたいじゃん!!」
「……いです」
「知ってるでしょこれ流行り! ネタなの! 本気じゃないから!!」
「……」
「ねえちょっと聞いてる!?」
「世界一かわいいです」
「は、」