喪失感
私は妻に聞いた。俺が突然死んだら、君は喪失感を覚えるか、ほっとするか、どっち?
すると、妻が「うーん」と考えてしまった。
おーい、そこは、前者だろう、礼儀として。
世界に一つだけ
「世界に一人だけの君に、世界に一つだけのものをあげたい。今はもってないけど、必ず探すから」と、言うと、君は「うん、うん」と、うなずくだけで、まるで期待してない素振り。私は少しイラッとして「本当なんだから」と言うと、「うん、ありがとう」と、微笑んで、道端の、もみじを拾い上げ、「この真っ赤に紅葉した、もみじだって、あなたからもらったら、これは私にとっては世界にたった一つのもみじになるんだよ!」って、君は菩薩か?
胸の鼓動
私は今年から家庭菜園をやっている。
ナス、きゅうり、トマト、ピーマンなど初心者向けのラインナップ。話はそれるが、2年前に、家を引っ越して、現在地に…何かと忙しく、2年のブランクの後の再開。ところが環境が変わって日の当たり具合のせいなのか、以前とは勝手が違い今年は上手く育たない…ナス、きゅうりは、なんとか育ってるのに、トマトだけは危うく死にかけるとこまで行った。が、いろいろ努力して、甦ってくれた。今では。たわわに身が成っている。もう死ぬのか?とまでに弱ってたトマトが、甦ったのを確信した時、心臓の鼓動がはっきりと聞こえた。それは、多分、初恋のひとに告白した時以来…半世紀も前の話。
#踊るように
昔、米国のヘビー級チャンピオンでモハメド・アリというボクサーがおりましたが、その選手のボクシングスタイルを(蝶のように舞い蜂のように刺す)と形容しました。それまでのヘビー級のボクシングは筋肉の化け物みたいな男たちが、ベタ足でお互い近づき、力まかせに殴り合うのがスタンダードな戦い方だったのに、モハメドアリ(デビュー当時はカシアス・クレー)が相手の繰り出すパンチを華麗で軽やかなフットワークでかわしながら、的確で鋭いジャブを繰り出し、相手を徐々に弱らせて.最後にはマットに沈めるという戦い方をした選手でしたねー。でも、そこで形容した蝶のように舞いは、実は舞っているのではなくて、美味しい蜜を求めて花々の間を飛び回っているのが、舞っているように見えている。すなわち(踊るように)飛んでいたということですね。
朝、目を覚ます。
布団に入ったまま、真っ直ぐ前の壁に掛かった時計を見る。『5時か…』
窓側の方に目をやると、外は少し薄暗い。5月6月なら、景色が隅々まで見える時間なのに…9月ともなると、さすがに、明けるのが遅くなってると感じる。「さて、起きるか」
布団をあげ、パジャマから家着に着替えていると、覚まし時計のアラームが鳴った。5時15分に設定している目覚まし時計。
近頃は、それより早く目が覚める。「年かな…」そう思える今日この頃。『もう要らないか?俺には…』
もの心がついた頃からずっと付き合って来た「時をつげる」目覚まし時計。私は、その見慣れた古時計を、しばらく、ぼーっと眺めていた。