実家の荷物を処分するから、大切なモノがないか確認するようにと母から電話があった。
久々に帰省すると自室はすっかり物置き部屋と化している。
片付け始めてはみたものの、押し入れの中からは懐かしい思い出が次々と出てきて、部屋いっぱいに広がり収集がつかなくなってきたぞ。
気づいたら、もう真夜中だ。
いささかウンザリしてベランダへ逃げ出し、缶コーヒー片手に一服する。
今はマンション暮らしなので、ベランダでの喫煙行為自体が懐かしい。
散乱した部屋の惨状に目をやると小学校の頃に配られた星座盤が目についた。
どれどれと手に取り、星空と見比べながら今の季節に合わせようとスライドしてみる。
ん!?隠れた部分から何やら手書きのメッセージが出て来たぞ。
あやちゃん、ありがとう。
せっかくのサプライズ、今頃気づくなんてゴメンな。
コーヒーの苦い思い出が新たに刻まれた。
星座
運動があまり得意ではなく体も小柄で体育は苦手だ。
前倣えも先頭だと腰に手をあてて非常に恥ずかしい。
そんな憂鬱な体育の授業だが、珍しく心待ちにしている。
体育祭でやることになったオクラホマミキサーの練習があるからだ。
クラスのあのコと手を繋げる、想像するだけで胸が熱くなってくる。
先週は運悪く順番が回ってくる前に曲が終わってしまい、非常に悔しい思いをしただけに今日こそは、と期待が高まり妄想はフライング気味に踊りだす。
手を取り、跪き、僕と一緒に踊りませんか。
先生「今日は女子の欠席で男女数が合わないから、男子の前から1名は女子の方に加わって。」
………。
踊りませんか
尊敬する上司がいて、
切磋琢磨する同僚がいて、
出勤するのが楽しみになる程可愛いコがいて、
サービス残業がない
そんな職場に巡り会えたらいいのになぁ
あはは
巡り会えたら
産まれてきてくれてありがとう。
恐る恐る赤ん坊を抱えると、儚げな重さだがはっきりと存在を実感する。
思わず涙がこぼれ落ちそうになり、顔を上げると窓からの景色が目に映る。
日が暮れて間もないのだろう、茜色が夜空に溶け込むようにグラデーションを織り成す。
名前は茜なんてどうかな。
でも今どきだとシワシワネームだなんていじられちゃわないか心配だ。
たそがれ
子供の頃は物として残る買い物にお小遣いを費やした。
買い食いやジュースに支払うのは無駄に思え、厳選された漫画やゲームを買い漁り、本棚にきれいに列んだタイトル眺めては悦に入る。
働き始めると欲しいと思えば買える余裕からか、しだいに物欲が薄まり無駄遣いが嵩むようになった。
そして遅ればせながら、形の無いものに重要性に気づく。
自己能力を高めて選択肢を増やし、人生をコントロールする。
時間の有限性を感じ、買い戻せないのなら浪費しないよう金銭で処理する。
経験や思い出が原動力となり糧となり人生を豊かにすることを。
形の無いもの