御堂吟子

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4/16/2023, 10:19:52 PM

学校サボってどこかへ行かない? と彼女が誘いをかけてきたのは、学校の最寄り駅で満員電車を何とか降りた時だった。
ここまで来て何を言ってるんだ、と咎めるのは容易い。だがその誘いはとても魅力的で、私はホームの端まで他の乗客の邪魔にならないよう彼女の手を引いた。いいよ、どこ行く?
ここでなければどこへでも。貴女と一緒ならどこも楽しいから。彼女が笑う。
じゃ、定番の海でも行く? ローファーとソックスを脱いで波打ち際で戯れるのは楽しそうだ。
私達は一度降りた電車に再び乗ることにした。狭い国だ、そのうち何処かの海岸に行き着くだろう。
ここではない、どこかの海で、私達は多少の後ろめたさを抱えながら、叶わぬ自由を謳歌するのだ。


「ここではない、どこかで」

4/15/2023, 10:01:25 PM

ああ、本当に綺麗だ。
君があの時死んでもわかり合えないと愚痴っていた父親と歩くヴァージンロード。その先には、絶対別れてやるとあの時泣いていたお相手の男。そうだね、いつも君と君の悩みに寄り添っていたのは私なのに、私はチャペルの長椅子で君がその男と誓いの言葉と口づけを交わすのを祝福しなければならない。
でも、今日の君は本当に綺麗。だからここに集った皆の中で私くらいは、悪しざまに家族を罵り男との諍いに泣く君の歪んだ顔を思い出して愛おしんでも良いでしょう?

「届かぬ思い」

4/14/2023, 9:58:26 PM

母は、父を愛することを止める代わりに「神様」を愛することに決めたようだった。
子の私を愛することは止めなかったようだ。何故なら、私はその「神様」に引き合わされたから。母が「神様」と呼ばう男を、だらしなく膨れた腹とだらしなく緩んだ顔を睨みつけて、私は呟いた。
神様、母を返してください。

「神様へ」