佐々宝砂

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12/3/2024, 1:09:32 PM

さよならは言わないで

おまえバカだな。昔からそう思ってたけどほんとにバカだな。さよならは言わないでって真面目に言ってるのか? 不真面目だったらもちろんそれはそれで俺は怒るが、おまえもそこまでバカじゃないだろ。これが間違いなく別れなのはおまえだって知ってるはずだ。人類初の未来に人を送る事業…これは冷凍睡眠であって俺が未来に目覚める保障もないが、俺がちゃんと未来に送られるとしてももうおまえには二度と会えないだろう。それでも冷凍睡眠槽を閉めるときおまえはさよならは言わないでと言って微笑んだ。おまえはどんな思惑があるのか少しは想像できる。おまえはAIの研究者だ。おまえという自我を冷凍睡眠でない方法で保全しようとしていた。それがどこまで可能か。俺は凍り付いたまま待ってみよう、と思いながら俺の思考は途切れてゆく。未来へ続く眠りだと信じている。

12/1/2024, 12:26:32 PM

距離

他者とは距離を置かねばならない。私たちはこどものころからソーシャルディスタンスを学ぶ。いつからそうなったのかも一応学ぶ。コロナという肺炎が流行ったころからだと教科書に書いてある。私は中学校の教室で、適度な距離をあけて隣のクラスメートと話をする。私はいちばん仲の良い彼女とも触れ合ったことがない。いつでも私とあの子のあいだには適切な距離。…先生。適度な距離、適切な関係とはなんですか。ハグをするのは大切な人とだけと教わりました。大切な人は友人でも同性でもいいのではないのですか。…本当の私は先生にそんなこと聞けなくて彼女と今日も適切な距離をとる。彼女は鳥のように首をかしげて微笑む。適切な距離。適切な距離。私は呪文のように唱える。他者とは距離を置かねばならない。でも、彼女はたぶん私にとって他者じゃない。

11/30/2024, 11:59:40 PM

泣かないで

泣かないでと言うのも言われるのも嫌いだ。泣きたい人は泣けばいい。泣いてるのを見たくないなら泣く原因を考えて悪い涙ならその原因を取り除けばいい。そりゃ簡単なことじゃないけどさ、なんてひとりごちたら涙が出てきた。しかも止まらない。別に悲しいわけでもないのにとろとろとろとろ涙が出る。これは病気じゃないかと思って眼科に行くと、駐車場はいっぱいで病院入り口から長い列が伸びて、みんなみんな泣いている。何事かと列の一人に聞いてみると日本中でみんな涙が止まらなくなったらしい。天の誰かさんは「泣かないで」と思ってたりするのだろうかと空を見上げれば雨がぽつぽつと落ちてきた。この雨はやまないのではないかと嫌な予感も落ちてきた。

11/26/2024, 12:14:07 PM

微熱

微熱が続くのと言う少女の体温は13度、蜥蜴人なんだから微熱なんか気にしないで早く寝なさい、冬が来るよ。

11/17/2024, 12:41:17 PM

冬になったら

「冬になったら」とは夢見がちすぎる。この土地に…いや、はっきりいうべきだろう、この星のこの土地に冬はこない。冬をもたらすファンタスティックな存在と、冬をもたらす科学を追求した存在と、それらが同等に思えるほど我らはどうしていいかわからない。ファンタジーと科学が手を結んでここに春を作れると言い出したので領主である私は怖い。こいつらに春を作らせていいのだろうか。作らせなかったら私はひどい主と言われそうだ。

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