: 高く高く
ちぎれ雲が浮かぶ穏やかな空を
君を乗せた飛行機が得意気に
高く高く飛び去っていく
見送りには行かなかった
涙を見せたくなかったから…
夢を語る君の瞳が眩しくて
心から応援したいと思った
だけど…、だけど本当は…
いや、やっぱり君を応援したい
だって僕は君の一番のファンだから
桜月夜
:子供のように
君を想うあまり
自分の心に蓋をしてしまった
本当に大切にすべきは
君の心だったのに…
子供のように
僕を見つめる君の瞳に
背を向けなければ
君を永遠に失うことは
なかったのに…
大丈夫
すぐに傍に行くよ
これからはずっと
君の傍に…
桜月夜
:カーテン
心地良い風が鼻先を擽る
いつの間にかうとうとしたようだ
微睡む目を風のほうへ向ける
カーテンが木漏れ日と
緩やかにダンスを躍っていた
柔らかな光を纏い込むような
どこまでも優しいダンス
幸せの笑みがこぼれる
体の力が抜けていく
そしてまた、瞼を閉じた…
桜月夜
:ココロオドル
ついにやってきた
この時をどれほど待ちわびたことか
心躍る気持ちをひた隠し歩みを進める
そう、松風庵のいちご大福!
指紋がおののくほど柔らかい求肥の中に
丁寧な仕事を施された白餡
これらに溺愛された香り豊かな赤いいちごが
ほんのり透けて見える可愛いフォルム
我慢できずに口に含むと
いちごの甘い泉に溺れそうになり
鼻腔を吹き抜ける甘やかなそよ風に
私は目を閉じ
至福の声を漏らすことしかできない
なんて幸せな時間なのだろう…
手が…抑えられない…
もう一個た~べよっと!
桜月夜
:力を込めて
これから任務を遂行する
初めての緊張に体が震える
大丈夫、きっとうまく行く
私にできないことなどない
包丁を逆手に持ち振り上げる
握りしめる手に力が込められる
「あっ、あなた、何をする気なの…」
眼光鋭く声を放つ
「キャベツの千切りです」
一瞬沈黙が走る
「そう…なのね…、わかったからいったん
包丁を下に置きましょうか…」
私は静かに指示に従った
「キャベツはそのままでいいから…そうね
玉ねぎの皮を剥いてくれるかしら…」
新たな任務がきた
「はい、お任せください」
私にできないことなどない
少し悪戦苦闘したが…うん、完璧だ
「えぇ~、こっ、これは…らっきょう?」
「義母さんったら、玉ねぎですよ
もしかして、もう少し剥いたほうが
よかったですか?」
「いえ、もう十分よ、ありがとう…」
義母が笑顔を浮かべている
心なしか体が小刻みに震えているが
大丈夫、喜んでいる
任務完了
そう、私にできないことなど、ない
桜月夜