視界が霞む。
水の中、息を吐く。
泡沫になって消える言霊たち。
伝わらない、聞こえない。
ただ、ただ沈む。
もし、この声がもう一度と届くなら。
最後にもう一度…声にできたなら。
あなたに伝えたい。
私が鯨なら、伝えられただろうか。
甲高く、切なく鳴くあの声で。最後にあの声で。
『私を忘れて。』
題___最後の声___
「ねぇ、秘密だよ」
誰がいう。
「これ秘密だから、君だけに」
あぁ、また一人。
「絶対教えちゃダメだよ、秘密だから」
こっちも。
「あの子は耳も聞こえないし目も見えない。だからなにしてもいいんだって。」
「あの子はなにをされてもわからない。だから失敗作なんだって」
なにも聞こえない、見えやしない。
唯一聞こえる、誰かの秘密。
喋れないから誰にも伝えられない、伝えない。
私だけの"誰も知らない秘密"
__誰も知らない秘密__
海の中から見える景色。
深海写真家という職業をやっていると、海のことはわかっても外、いわば『空模様』なんてものは気にならない。
晴れていればいい。
ただそれだけ。
ふと水中の中で顔を上げる。
「あぁ…、綺麗だ。」
空が、夜空の星月が、波が新しい『空模様』を描いていた。
それは、『空のこと』なんて気にも止めなかった私を嘲笑うかのようにただただ美しかった。
__空模様__
誰もが寝静まり、波の音がよく響く。
少しむせかえるほどの潮の香り。
足元を照らすのはあまりにも儚げな月の光のみ。
砂浜を歩き、足跡を一つひとつと残してゆく。
あぁ、これだからやめられない。
目の前に広がるのは、月はもちろん星の輝きさえも反射する海。
『夜の海』だ。
__夜の海__
遠く、重く耳に残る音。
生き物、眠りし暗闇に。
人も、動物も、植物も。
皆が静まる夜の歌。
この夜をすべるは、妖か。
人ならざるもの集まりて。
さぁ、今宵は百鬼夜行。
始まり合図は鐘の音。
__鐘の音__