心のざわめき
私には2年前から交際している男性がいる
彼はファッションや自分の身の回りに関することは流行りに敏感なタイプでこだわりも強い。
こだわりが強いというとマイナスに聞こえてしまうかもしれないが、顔がかなり整っているのでどう自分を良く見せようかと研究するのも納得がいく。
そして、話をするのがとても上手で映画やドラマのあらすじを聞くと起承転結わかりやすく答えるものだからこっちまで観た気になるくらいだ。
身長が170届くか届かないかくらいなのをコンプレックスとしているが、私は別に気にしてもいないし逆にコンプレックスがあって良かったと思えるくらい魅力的な男性だ。
魅力的すぎる男性が私なんかと付き合っていいのかと不安を持つ一方、こんな素敵な恋人がいてなんて幸せだろうと優越感に浸る自分がいた。
しかし、顔が良くて話が上手いものだから周りに人が寄ってくる。他の男性が寄ってくるのは気分がいいが、女性が寄ってくるのはなかなかに気分の良いものではない。それにその女性たちは「こんな彼氏羨ましい」とか「本当にいい男だよ」と彼に面と向かって言ってしまうのでいつもハラハラする。
それでもそんな嫉妬は見苦しいなと自分を制しながら、私を見てほしいと言った雰囲気を少し醸し出しながら上手く彼と付き合っていた。
彼とデートに行くと彼のスマホは度々通知音が鳴る。
私は基本的に公式LINEしか届かないタイプなので、そんなに色んな人と連絡を取れるのはすごいなあと思いながらいつも過ごしていた。
そんなぽけっとした考えを私が持っているとは知らずに彼は私を安心させるために聞いてもないのに連絡内容を報告してくれる。
しかし連絡の相手は半数が女性からである。内容的にもおすすめのコンビニスイーツやら、その女性の彼氏の様子やら浮気を疑うものではないにせよやはり気分がいいものではない。別に言ってくれなくてもいいのになあと思いつつ「でも不安にさせたくないし」と返されて変な空気になっても嫌だし面倒くさいので黙って聞いておく。
顔もよし、コミュニケーション能力よし、私への気遣いよしの恋人を持って私は幸せだと思う。
幸せだと思いながら私は彼にハグをする。
でも体が重なっているはずなのに、どうしてだろうか。
距離がある気がする。
何も心配することはないはずなのになぜか不安になる。このざわめきはなんだろうか。
どうか勘違いであってほしい。
そう願いながら私は彼にキスをする。
君を探して
漫画やアニメを見ると前世が出てくることが多々ある。
前世は辛い経験をしたけれども今世ではそうならないように楽しく生きようとか、前世では結ばれなかった恋人と今世では幸せになりたいとか。
でも、残念ながら私には前世の記憶というものは存在しない。
だから、桜舞い散る入学式でなんだか見覚えのある姿を見つけて必死に追いかけてみたら前世の好きな人でした。やっと、やっと会えた…。
なーんてことは起きたことがない。
そもそも現実的に考えたら、相手が前世を覚えているとは限らないし、性別が変わっているかもしれないし、年齢も全く異なっているかもしれない。
でも前世というものになんとなく惹かれるものがある。
もし私に私の知らない前世があるとするならば
もし私に前世で愛する人がいたならば
私はあなたを探そう
だからあなたは私を探して
透明
「好きな色って何?」
そう聞かれて自分が「○色」と答えると、すぐに次の話題へ進むこの質問。
私はこの簡単で、淡白な質問にどう答えていいか分からない。
別に好きな色だってないわけではない。
そして別に特別好きというわけでもない。
でもそんなことを考えすぎて答えにありつけないのは、相手から変な人と認識されかねない。
だからいつも薄い緑とか、紫とか気分に合わせて答えてみる。
相手からは「へーそうなんだ」と適当な返事しか返ってこない。
そして私も「うん」と適当な答えしか返さない。
こんなことを何度も何度も繰り返してきた。
幼い頃だったら純粋にピンクとか黄色とか答えられただろうか。
いつから私はこんな誰も得しない捻くれた思想を巡らすようになったのか。
さて、こんなくだらない思想の答えを探してみようか。
青?赤?緑?黒?少しカッコつけてペパーミントグリーン?
いいや。もっとカッコつけてみようか。
全てを映し出せるあの色に…
「好きな色って何?」
「透明」
終わり、また初まる、
「終わり」と聞いて何が思い浮かぶだろうか。
今日の仕事が「終わる」、3ヶ月観てきたドラマが「終わる」等々、さまざまな思い浮かぶだろう。
一方、「初まる」はどうだろうか。「始まる」だったら「終わる」同様に多く思い浮かぶ。しかし、「初」の漢字が用いられると私は人との出会いである「初めまして」の挨拶が思い浮かぶ。
今月は学生にとっては別れの季節であり、次のステージへの準備期間となる3月である。
今回は人との「終わり」と人との「初まり」を描こうとしよう。
高校3年生の3月1日。
私は3年間通っていた高校を無事に卒業した。
先生からコサージュを受け取り、体育館へ入場し、呼名の返事をする。いわゆるありふれた卒業式の形式だった。
そして「はい」という私の言葉に一体どのような感情が含まれていただろうか。
友人との別れに対する悲しさ、大学に対する期待と不安、親と先生への感謝…
当然以上の一般的な感情は含まれていただろう。
しかし、私の感情は彼への想いが大半を占めていた。
「彼」というのは高校2年生の6月ごろから付き合っていた恋人のことである。
多くの喧嘩もしてきたが、それなりに仲のいいカップルだったと我ながら思う。
しかし、長い受験期間の中で私たちの関係は大きく変わってしまった。
私は難関私立大学を目指していた、一方彼は地元から比較的近い私立大学を目指していた。偏差値的には私の目指している方が断然高かったが、彼は学びたいものがその大学にあるという理由で選んでいたから、彼の選択を私なりに尊重していた。
(尊重しているつもりなだけかもしれなかったが…)
そのためお互いに頑張ろうということで、恋人関係も保ちつつ受験を優先しようとした。
しかし、彼は人よりも優位に立ちたいという性格であり、極度の寂しがりやだった。
私の方が偏差値が高い大学を目指すという事実に受け入れられなかったのかたまにそのような態度を取るようになった。さらに、毎日のように寝落ち通話を要求され続けた。私は受験においてもストレスがかかっていたから、彼の行動にストレスを感じるようになり電話中に喧嘩することが増えた。そうなるとさらに精神的にダメージをくらうこととなる。
そして彼が共通テストに失敗し、私が私立の勉強で疲れ果てていた時お互いの感情が爆発した。
「別れよう」
私がそう言ってから私と彼の、悲しさ、これまでの怒りなどがドッと流れ出て3時間ほど止まらなかった。
もうそうなってしまっては後にしまったと気づいても後戻りはできなかった。
結局揉めに揉め、好きだけど別れようと彼から意味の分からない言葉を受験日の前日にもらい私たちは「終わる」
未だにその結論に納得はいかないが、卒業式の私はもっと納得がいっていなかった。
あの時こうしていればとありがちな後悔ばかりを心の中で繰り返していた。
卒業式の日まで揉めたくなかったから、最後にと2人で写真を撮って大人になってまた好きになれたら付き合おうなどと頼りない別れをした。
その後は新生活の準備でお互い忙しく特に何も起こらなかった。
大学生活にも慣れ始め、少し彼のことを恋しく思っていた6月。男友達からインスタのストーリーのスクリーンショットが送られてきた。
別れた時にフォローを外したため、久々に見る彼のストーリーに少し心が踊った。
しかしそのストーリーには白いシャツにスカートを履いた女が映っていた。そしてその女に私は見覚えがあった。彼女は私の幼馴染であり、彼の女友達だった。
目の前が真っ白になるとはこの事かと思うくらい何も考えられなくなった。
ストーリーに映る私の幼馴染、そして写真の背景は夜。
もう疑いようがないくらい2人の関係の成立を物語っていた。
それでも根拠のない自信から、彼はそんなことをしないと自分に言い聞かせた。
たとえ幼馴染のLINEのアイコンが彼になっていたとしても…。
彼と幼馴染を信じたい気持ちと呆れる気持ちと絶望となぜか出てくる笑い。自分でもよく分からなくなった。
ある程度冷静になってみると、彼らは私と付き合っている間も連絡を取り合っていたし、「まだ付き合ってるの」と幼馴染から連絡が度々あったという彼からの報告から充分に彼らを疑う要素などあったのだが、単純に私が気付きもしない馬鹿だったのか、それとも気づかないふりをしていたのか…
どっちにしても馬鹿としか言いようがない
そうなると過去の彼の全てが信じられなくなってきた。
あの時私にいった「好き」と「愛してる」はなんだったのか。
2人で私を嘲笑っていたのか。
大人になったらなんて無責任な言葉を何故私に残したのか。
「あぁ、人って裏切るんだ」
私は泣きながら、不気味に笑って言った。
彼らが3月ごろに付き合ったと彼の親友が思い切って連絡をくれたのは10月だった。
この時まで私の心の片隅に彼の存在は確実にあったし、今も見え隠れする。
馬鹿な女だと、哀れな女だと思うだろう。私もそう思う。
強制的に終わりが告げられたが、残念ながら私にはまだ初まりの合図は届いていない。
合図はいつくるだろうか。
もうそろそろかそれとも随分先になるか。
時期は分からないが私もそろそろ進む準備をしてもいいかもしれない。
あんな裏切りを受けたら次が怖くなるのは当然だ。
しかし、これで良かったと思える「初めまして」をして彼らに堂々と顔向けするのもまた一興。
ああ、もちろん彼らのことは恨んではいない。
復讐したいとも思っていない。
何故なら彼らには制裁が下されるはずだから…
私が彼を傷つけた代償は10月で払い切った。
私を傷つけた代償をどう払い切るかは彼次第だ
人は裏切るということを教えてくれたあなた。
私はあなたと関わらない世界で幸せになります。
「初まり」部分は未来の私が書くことにしよう。