体育のあとの教室
ボディシートの匂い
桃とかシトラスとかが混ざって絶妙に臭い
でも密かに香るムスクの匂い
それだけは嗅ぎ分けることができる
気持ち悪い?
僕もそう思う
でもムスクの香り好きなんだ
落ち着く匂いがする
誰の匂いかは分からないけど
次の授業は...古典か
あまり得意じゃないんだよなぁ
みんな寝るし...
チャイムと共に号令がかかる
20分後
ほとんどの人が寝ている
こんなに寝ていて大丈夫なのかと思う
無論隣の席の人も寝ている
窓が空いているから秋らしい冷たい風が吹いてきた
この前までめちゃくちゃ暑かったくせに
もう鳥肌がたつくらい寒い
冷たい風と共にムスクの香りがした
ムスクの香りあんただったのか
男が好きな匂いは共通なのだろうか
隣の席の男からムスクの香りがした
『女子だったら良かったのに...』
「ここテストに出るからな〜」
先生の大きい声で授業中だったのを思い出した
友達の定義ってなんですか?
私にはよく分かりません
勉強みたいに答えがないからとても難しいと感じます
答えがあればみんなと同じようにできるのに
なんで答えを誰も出してくれないんですか?
提示してくれないんですか?
友達の定義さえ分かれば
あの子を傷つけることも
自分を偽ることも
意見を言えなくなることも
全部なかったはずなのに...
なんでですかね
涙が溢れそうなのに
人を傷つけてしまった罪悪感があるのに
私は泣けません
泣きたいのに
気持ちは泣いているのに
なんでですかね
隣の席の人言ってました
『人の感情が関わることには答えがないことが多いけど、人によって答えが違うから美しくて難しい、だから定義ができないんだよ』
って
わかるようで分からない
彼女は頭がいいから
私みたいな阿呆には分からないような説明だった
でも彼女と話してると自然と落ち着く気がする
こういうのを私は友達と呼びたいと思ってしまった
放課後の教室
掃除の担当だったから担当場所に向かった
時刻は午後4:00
夕日が差し込んできている
窓際で歌っている君も見える
『歌上手いなぁ...』
ポツリと呟いた
はずだった
「えっ!?あっありがとう」
君は目を丸くしていた
僕も聞こえてるとは思わなくて驚いた
夕日に照らされた君の顔がとても素敵だと思った
友達が来てしまったから会話はそこで途切れた
「良かったな、話せて」
『うるせぇよ』
僕が思いを伝えられる日は来るのだろうか
光が差している教室
君がいる教室
かわいいかわいい君がいる教室
君が好きなのに
君に好きだと言えない
僕はインキャだから君に話しかけることすらできない
おこがましすぎて
君の僕の間には見えない霧があるように感じてしまう
君に話しかけることができたのなら
君が話しかけてくれたなら
勇気を出すことができない僕だけど
明日には勇気を出して
君に好きだと言いたい
頑張って君に伝えたい
気持ち悪いと言われてしまうかもしれないし
好きな人に好かれる世界線に行きたいと何度も願った
こんな僕でも君の視界に入ることが許されるのなら
どうか僕の名前を呼んでください
私、秋の果物ってあまり好きじゃないんですよね
柿とかぶどうとか...
りんごは好きなんですけどギリギリ冬の果物ですし
あぁでも梨は好きです
とても美味しい品種知ってるんです
大好きだった人が作っているやつです
とても美味しいんです
彼の優しさがこもってるんじゃないかってくらい
優しい味がする梨です
あの梨また食べたいなぁ
もう作っている人がいないので
食べることができないんです
最期に食べたかったな
『ごめんな、お互い歳だからわかるだろう?もうあの梨を作る体力も気力もないんだ』
そういい大好きだった彼女の
眠りについた彼女の
丁寧な字で書かれた日記を静かに閉じた